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石榴と鬼子母神と姑獲鳥

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諸田玲子さんの『お鳥見女房 (新潮文庫)』に、幼い男の子が三十過ぎの女に連れ去られる事件を描いた「石榴の絵馬」という話が収録されている。その女は鬼子母神(きしもじん)に石榴(ざくろ)の絵馬を奉納している。

「石榴は人肉の味がすると言います。それゆえ、人の子を食べるのを止めた鬼子母神に、代わりに食べよとでもいうのでしょう、石榴の絵馬を奉納する者があとを絶たぬのです」
(P.83)

主人公のお鳥見女房の珠世は、物語の中で説明している。

そもそも鬼子母神は訶梨帝母(かりていも)という夜叉で、千人の子を持つ母でありながら、毎日一人ずつ人間の子をさらってきては食べていた。あるとき自分のこの一人が行方知れずとなり、半狂乱になって嘆き悲しんだ。お釈迦様は「千人の中のたった一人のわが子が行方知れずになってさえ、嘆き悲しむのが母というもの。数少ない子を奪われ、食べられた母はどれほど悲痛な思いをしているか」と訶梨帝母を諭したという。以来、訶梨帝母は子どもをさらって食べるのを止めて、子どもの守護神となったという。ちなみに、「鬼子母神」の「鬼」という字は、角に当たる一画目がない文字を使っている。

御鳥見役の組屋敷が雑司ケ谷の鬼子母神の近くにあるのは象徴的であり、作者はそのロケーションを作品に生かしている。時代小説とは言い難いが、雑司ケ谷といえば、母と子がテーマになっている『文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)』が思い出される。

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)