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埋もれた傑作も。「鎌倉殿の13人」が面白くなる、歴史短編集

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『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説』|菊池仁編|光文社文庫

鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説文芸評論家の菊池仁(きくちめぐみ)さんの編による歴史時代小説アンソロジー、『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説』(光文社文庫)を紹介します。

三谷幸喜さんの脚本によるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送が始まり、同時代を描いた小説を楽しみたいと思っている方も多いのではないかと思います。

久々の鎌倉時代ものということで、私もその一人です。

『傑作! 名手たちが描いた小説・鎌倉殿の世界』(宝島社文庫 『この時代小説がすごい!』シリーズ)の解題を担当したときに、鎌倉幕府草創期を描いた歴史時代小説を探しましたが、短編小説は意外に少ないと思いました。

本書は、歴史時代小説の目利きで、すぐれた作品を掘り起こしてきた編者の、選択眼が冴える短編6編を収録したアンソロジーです。

鎌倉幕府の生みの親、源頼朝が急死。そのあと将軍の座、執権の座を巡り、絶え間なく暗闘が繰り広げられる。若き将軍を囲む取り巻きや後見人など魑魅魍魎たち……。ある者は権力を狙い、また、ある者は一族が滅ぼされないために先手を打つ……。2022NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が面白くなる。名だたる作家たちの珠玉の傑作を揃えた珠玉の「鎌倉」歴史小説集!

(『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説』カバー裏の紹介より)

高橋直樹さんの「非命に斃る」は、初の武家政権を作り上げた源頼朝の嫡男に生まれ、栄華に包まれたものになるはずだった、二代将軍源頼家を描いた短編です。

源家三代の将軍はいずれも不審な死を遂げていますが、とくに頼家についてはさまざまな謎を抱えていて、物語の格好の題材になっているように思います。

(前略)この子の運命を襲った出来事は、この子が自らの不徳によって招いたのか、それとも歴史の必然による不可抗力であったのか。答えを出す資格のある者はひとりもいない。
 
(『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説』「非命に斃る」P.15より)

安西篤子さんの「壇の浦残花抄」では、那須与一の弓の妙技で知られる、屋島の合戦の話から始まります。

語り手は、扇子の的を持って小舟に乗った、建礼門院(平清盛の娘で安徳天皇の母)に仕えた玉虫の前。
敵方の女性の目を通して、源義経像が浮かび上がってきます。

内村幹子さんの「摂家将軍」は、三代源実朝の暗殺後、四代将軍を継いだ藤原頼経に光を当てた短編。

 三寅丸――頼経の幼名である。寅年の正月、寅の日の寅の刻に生まれたので、この名が付けられた。
 三寅丸の母系が頼朝につながっていることを理由として強引に彼を「鎌倉殿」に迎えることにしたのである。
 
(『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説』「摂家将軍」P.129より)

「鎌倉殿の13人」に登場するかどうかわかりませんが、寅年にぴったりの人物。
知名度が低くて、今までぼんやりとした影のような存在だった鎌倉四代将軍。その横顔が鮮やかに浮き上がってきました。
頼家が側室に産ませた娘で、その妻となる「竹の御所」鞠子のことも気になりました。

著者は、1985年「今様ごよみ」(『富子繚乱』収録)で第10回歴史文学賞受賞を受賞し、北九州小倉を中心に活躍された作家です。

桜田晋也さんの「時政失脚」
北条時政を描きながらも、その子どもである政子と義時の暗躍を浮き彫りにしています。本作で描かれる時政が、「鎌倉殿の13人」の坂東彌十郎さんとして目の前に浮かんできて少し困っています。

著者は、『尼将軍 北条政子』などの歴史上の人物を描いた長編作品がある作家。

篠綾子さんの「鎌倉の鵺(ぬえ)」は、本書のための書き下ろしです。
解説でその意図を編者は以下のように綴っています。

(前略)アンソロジーをより面白いものにするためには、比企一族の物語が欠かせないと思った。頼家と鎌倉殿の十三人を補強する意味も含めて、作者に書下ろしのお願いをした。
 
(『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説』「解説」P.351より)

頼家の乳母夫(めのと)で、十三人の一人である比企能員(ひきよしかず)を主人公とした短編。
頼家が恐れた、鎌倉に住まう鵺(ぬえ)の正体は何なのでしょうか?

新田次郎さんの「仁田四郎忠常異聞」
仁田忠常(にったただつね)は、鎌倉の有力な御家人の一人。
源頼家の嫡男一幡(いちまん)の乳母夫で、源頼家の命で富士の人穴を探索したことでも知られる人物でもあります。
幻想的な人穴と頼家の悲劇がシンクロしていく妙味のある短編。

既読の短編もありましたが、本書で初めて出合った作品もありました。
ともすると書棚で埋もれそうな、渋めのラインナップながらも、読みごたえがあり、きらりと光るものばかりです。

鎌倉時代がますます面白くなってきました。

鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説

菊池仁編
著者:安西篤子、内村幹子、桜田晋也、篠綾子、高橋直樹、新田次郎
光文社文庫
2021年10月20日初版1刷発行

カバーデザイン:泉沢光雄
カバーイラスト:村田涼平

●目次
非命に斃る 高橋直樹
壇の浦残花抄 安西篤子
摂家将軍 内村幹子
時政失脚 桜田晋也
鎌倉の鵺 篠綾子
仁田四郎忠常異聞 新田次郎
解説 菊池仁

本文353ページ

収録作品一覧
「非命に斃る」(『鎌倉擾乱』文春文庫)
「壇の浦残花抄」(『壇の浦残花抄』集英社文庫)
「摂家将軍」(『時代小説大全』新人物往来社)
「時政失脚」(『尼将軍 北条政子2 頼家篇』角川文庫)
「鎌倉の鵺」(本書書き下ろし)
「仁田四郎忠常異聞」(『六合目の仇討』新潮文庫)

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『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説』(菊池仁編・光文社文庫)
『傑作! 名手たちが描いた小説・鎌倉殿の世界』(安部龍太郎、山本周五郎、岡本綺堂、火坂雅志、永井路子、坂口安吾・宝島社文庫)

菊池仁|時代小説ガイド
菊池仁|きくちめぐみ|文芸評論家1944年、神奈川県横浜市生まれ。文芸評論家。書評家。アンソロジスト。2009年、『ぼくらの時代には貸本屋があった』で、第22回大衆文学研究賞受賞。時代小説SHOW 投稿記事著者のホームページ・SNS→菊池仁...