頼朝、頼家、実朝、大姫…、源将軍家の闇に光を当てた連作集

『黄蝶舞う』|浅倉卓弥|PHP文芸文庫

黄蝶舞う浅倉卓弥(あさくらたくや)さんの時代小説集、『黄蝶舞う』(PHP文芸文庫)を入手しました。

2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、平安末から鎌倉前期を舞台にしています。

ドラマを楽しむために、源平合戦から鎌倉幕府の草創期を描いた歴史時代小説を読んで、主要な登場人物たちへの理解を深めたいと思っていますが、この時代を描いた小説はあまり多くありません。

頼朝・頼家・実朝ら源将軍家の闇に光を当て、ベールに覆われた悲劇を鮮やかに描ききった幻想連作短篇集。頼朝と清盛の相剋、謎に包まれた頼朝の死をめぐる因縁を描く「されこうべ」、『修禅寺物語』に想を得た「双樹」、実朝暗殺事件を実朝・公暁双方の生涯からドラマチックに迫る「黄蝶舞う」と「悲鬼の娘」、頼家と頼朝の実姉・大姫の儚い生を描く「空蝉」の五編を収録。著者初の本格時代小説、待望の文庫化。

(本書カバーの紹介文より)

本書は、頼朝をはじめとする源将軍家の人々を描いた連作集です。
頼朝と北条政子の長女・大姫を主人公にした「空蝉」、頼朝の死の真相に迫る「されこうべ」、将軍位を追われて修禅寺に幽閉された頼家を取り上げた「双樹」、実朝の実像を描いた「黄蝶舞う」、そして、実朝暗殺事件を公暁の視点から見た「悲鬼の娘」という5つの短編小説を収録しています。

大姫はまだ六つか七つのころ、木曾義仲の嫡男で鎌倉で暮らすようになった十二歳になるやならずといった少年の義高の許婚となり、全身全霊で愛しました。

しかしながら、その十か月後、義仲が頼朝の弟・範頼と義経に率いられた鎌倉の軍勢と対決して敢えなく最期を遂げると、義高も鎌倉を出奔するところを捕らえられて首を刎ねられてしまいました。

悲報を聞いた大姫の嘆きは大きく、一時は生死の境を彷徨うほど衰弱し、その後十数年も陽炎のような生涯を送っていました。

「姫、一つだけ教えて下さい」
 やがてまるで望みの儚いことを悟ったように政子が低く声に出した。それでもなお吐息一つ分躊躇ってから母は娘に問いかけた。
「貴女は私を、私と御所様とを恨んでおいでなのですか」
 すると姫は弱々しく首を左右に振った。
「決してお恨みなど――」

(『黄蝶舞う』「空蝉」 P.19より)

大姫がわずか二十年の生涯を閉じたのは建久八年(1197)で、頼朝、頼家、実朝と次々に襲う悲劇の始まりでした。

史実を押さえ、先行作品を意識しながらも、歴史の闇に光を当て、運命に翻弄され舞台から退いていった者たちを丹念に描いていきます。

著者は、2002年に『四日間の奇蹟』で、第1回『このミステリーがすごい!』大賞の金賞を受賞しデビューしました。

2004年に発表した、『君の名残を』は三人の高校生が平安末期にタイムスリップするという歴史SFで、初の歴史時代小説となる、本書へのウォーミングアップといったところで、こちらの作品も気になります。

黄蝶舞う

浅倉卓弥
PHP研究所・PHP文芸文庫
2012年6月1日第1版第1刷

装丁:川上成夫
装画:宮山加代子
Skull写真:(c)Image Source /amanaimages

●目次
空蝉
されこうべ
双樹
黄蝶舞う
悲鬼の娘

引用・主要参考文献一覧
源氏略系図

解説 末國善己

本文381ページ

単行本『黄蝶舞う』(PHP研究所・2010年1月刊)を加筆修正したもの。

■Amazon.co.jp
『黄蝶舞う』(浅倉卓弥・PHP文芸文庫)
『四日間の奇蹟』(浅倉卓弥・宝島社文庫)
『君の名残を (上)』(浅倉卓弥・宝島社文庫)

浅倉卓弥|時代小説ガイド
浅倉卓弥|あさくらたくや|作家 1966年、北海道札幌に生まれ。東京大学文学部卒業。 大手レコード会社に就職し、洋楽部ディレクターとして勤務。 その後、翻訳会社、雑誌編集部、団体職員を経て現在に至る。 2002年、『四日間の奇蹟』で...