エスパーニャを救え、歌姫を守れ! サムライの冒険活劇

『エスパーニャのサムライ 天の女王』

エスパーニャのサムライ 天の女王鳴神響一さんの長編歴史時代小説、『エスパーニャのサムライ 天の女王』(双葉文庫)を紹介します。

本書は、慶長遣欧使節の一員としてヨーロッパに渡り、帰国せずにスペイン(エスパーニャ)に留まった侍の活躍を描いた痛快冒険歴史小説です。

慶長遣欧使節とは、慶長十八年(1613年)に仙台藩主伊達政宗が、フランシスコ会宣教師ルイス・ソテロ正使に藩士・支倉常長ら日本人の武士をつけて、スペイン国王フェリペ3世、およびローマ教皇パウロ5世のもとへ派遣した使節団のこと。

17世紀、無敵の帝国エスパーニャ(スペイン)に渡った慶長遣欧使節のなかに、彼の地にとどまった二人のサムライがいた――!! 武士の誇りを捨てず、鮮やかな剣を遣う小寺外記と瀧野嘉兵衛は「男の中の男」と称えられ宮廷で人望を得る。だが、フランス、バチカンらエスパーニャを狙う権力闘争は激化し、二人は美しき王妃の秘密にまつわる巨大な陰謀に巻き込まれていく。現代セビーリャと往時の絢爛たるマドリードを舞台に描く歴史冒険活劇。
(カバー裏の内容紹介より)

現代のスペイン。
マドリードの大学で文学を教える島本俊介は、ファンで贔屓にしている若きバイラオーラ(フラメンコの女性踊り子)のリディアから、祖母から受け継いだ銀製の古いコルガンテ(ロケット・ペンダント)を見せられ、中に刻まれた長い文句と裏に描かれた日本の家紋のような紋章の意味を調べてほしいと依頼されました。

そして二人は、コルガンテに導かれて、エストレマドゥーラ州のある村の墓地の外れにある、石積みのテンプレーテ(小礼拝堂)を訪れ、そこで、無原罪聖母像を描いた古いテンペラ画と1623年のマドリードで起こった驚くべき物語を綴った羊皮紙の束を発見しました。

慶長遣欧使節でスペインに残った、小寺外記(こでらげき)と瀧野嘉兵衛(たきのかへえ)は、マドリード一の歌姫タティアナから持ち込まれた、馬車を襲う刺客から貴人を護衛するなど、武芸の腕を生かした裏仕事で報酬を得ていました。

タティアナは、嘉兵衛がかつて愛した女性でした。

宮廷画家として売り出し中のベラスケスは、大臣をつとめるサルバティエラ伯爵から、国王フェリペ四世とタティアナの密会用にタジェル(アトリエ)を提供するように命じられました。

その後、ベラスケスは、異端審問所の事前調査で行跡や家系血統など根掘り葉掘り徹底的に調べられたうえで、異端審問所の総帥であるホカーノ神父から、「画工は神を讃える絵だけを描けばよい」と釘を刺されました。

外記と嘉兵衛は、サルバティエラ伯爵から、明朝マドリードを発ってバチカンに赴いて、バルベリーニ司教が持っている《愛の宝石箱》と呼ばれる宝物を奪還して、万聖節までに持ち帰ってほしいと仕事を依頼されました。

「《愛の宝石箱》は、わたくしの大切な持ち物でした。わたくしが、まだエリザベート・ド・フランスと呼ばれていた頃に、何者かの手によって奪われたものです」
 イサベル王妃の可憐な唇が口惜しげに震えた。
「泥棒から《愛の宝石箱》を手に入れたバルベリーニ司教は、わたくしを脅し、卑劣な要求をしているのです。ですが、すべては、わたくしのフランス王女時代の話であり、この問題は国王陛下にはお知らせ申したくないのです」
(『エスパーニャのサムライ 天の女王』P.124より)

伯爵は、《愛の宝石箱》をバルベリーニ司教が持っていると、エスパーニャ帝国に重大な危機が訪れると言い、イサベル王妃は、侍女でベラスケスの妹ルシアを名代として同行させるので力になってほしいと依頼しました。

高額の報酬も約束されて、三人の《愛の宝石箱》の奪還作戦が始まります。

この奪還作戦は、ハラハラドキドキする冒険の連続で、前半の山場となっています。

 聖母像に視線を移した途端、フェリペ四世の目元がパッと明るく輝いた。
「おお、これは素晴らしい! 予はディエゴが、これほどの腕を持つとは思わなかった。まさに主の福音を伝える絵だ。タティアナ、モデロのそのほうよりも、はるかに美しく魅力的でないか」
(『エスパーニャのサムライ 天の女王』P.282より)

フェリペ四世は、タティアナをモデルに『無原罪の御宿り』を描いたベラスケスのタジェルを訪れ、九分通り仕上った絵を見て称賛し、全国民に見せたいとまで言いました。

公開されれば、自分の未来がないという、ホカーノ神父のことが頭をよぎり、ベラスケスの心には暗雲が立ち上り始めました。

国王や貴族よりも、教皇庁に直属する異端審問所が力をもつ当時のスペイン。ベラスケスの絵にもある疑惑がかけられ、タティアナが窮地に陥ります……。

本書の面白さは、宗教が依然として政治や経済に対して大きな力を持っていた、17世紀前半当時のスペイン、イタリア、フランスが活写されている点にあります。

単行本の刊行時以来の再読となりましたが、ハラハラドキドキ、そしてワクワクする歴史と冒険の旅を満喫しました。

エスパーニャのサムライ 天の女王

著者:鳴神響一
双葉文庫
2020年4月19日第一刷発行
2017年4月、エイチアンドアイより刊行された『天の女王』を改題し、加筆修正のうえ文庫化したもの。

カバーデザイン:長田年伸
カバーイラストレーション:山本祥子
解説:細谷正充

●目次
序章 わたしとリディアの小さな冒険
第一章 マドリードの九月は忙しい
第二章 神の愛の灯が消える
第三章 いざ、ローマへ
第四章 ベラスケスは聖母マリアに悩まされる
第五章 バチカンは闇の夜
第六章 聖母マリアは魔女なのか
第七章 一路、マドリードへ
第八章 異端判決宣告式には『天の女王』が響く
第九章 エスパーニャに栄光あれ!
終章 新たな旅立ち
解説 細谷正充

本文508ページ

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『エスパーニャのサムライ 天の女王』(鳴神響一・双葉文庫)

鳴神響一|時代小説ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■...