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家族に不幸をもたらす呪いの壺。澪と高良の呪術ファンタジー

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『京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く』|白川紺子|PHP文芸文庫

京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く白川紺子(しらかわこうこ)さんの文庫書き下ろし現代幻想小説、『京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く』(PHP文芸文庫)をご恵贈いただきました。

本書は、『おまえは二十歳まで生きられないよ』と呪いをかけられた少女麻績澪(おみみお)が、運命を変えるために京都で暮らし、邪霊を祓うことを生業にする蠱師(まじないし)を目指す、現代呪術ファンタジーの第二弾です。

自らにかけられた呪いを解くため、京都で暮らす澪。蠱師の営む下宿屋「くれなゐ荘」に住み、高校に通う毎日だが、邪霊に襲われることも多かった。ある日澪は、京都で暮らすことになった兄・蓮とともに出かけ、朽ちかけた橋の袂で女がすすり泣く声を聞く。そのとき、水に引き込まれそうになった澪を助けてくれたのは……。澪の淡い恋の行方も気になる、人気の呪術幻想譚シリーズ第二弾。

(『京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く』カバー裏の内容紹介より)

高校二年生の澪は、京都一乗寺の下宿屋「くれなゐ荘」に、大学生になった兄・蓮と下宿していました。

「くれなゐ荘」は、忌部玉青、朝次郎夫妻が営み、下宿人は蓮と澪の兄妹のほかに、麻生田八尋、いずれも親戚筋にあたり、蠱師という下宿屋です。

「『しゃもじさま』を祓ってほしいんやと」
「しゃもじさま?」
 澪の脳裏に浮かんだのは、ご飯をよそうときに使う、あのしゃもじだった。
 
 あのしやもじではなかった。目の前にあるのは、壺である。甕といったほうがいいのか、大きめの、梅干しを漬けるときに使われそうな、飴色の壺だった。
「いつごろからあるのかは、わかりません。昔、うちの先祖が門付けを助けたお礼にもらったとかで、黒柿家を守ってくれる神さまなんやと、生前、父は毎日拝んでました」

(『京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く』P.15より)

日曜日に、澪は八尋とともに衣笠にある依頼人の家に来ていました。
昭和初期に建てられたという和洋折衷のしゃれた邸宅ながら、雰囲気は妙に暗く、薄暮に沈んでいるように見えました。暗さは屋敷の奥に進むにつれて顕著になり、通された座敷の床の間が最もひどくなっていました。床の間に据えられていたのが、『しゃもじさま』という壺でした。

壺のうしろにできた影が濃く、邪霊が現れるときのように、かすかに焼け焦げたようなにおいがしました。

依頼人の亡くなった父が拝んでいた『しゃもじさま』。商売に手を出せば大なり小なり設けていましたが、代わりに家族の誰かが怪我をしたり、病気になったりしました。

どうしてこんなに影が濃いのか――澪は畳に手をついて身を乗り出し、壺のうしろをのぞき込みました。

 裸足が見えた。骨と皮だけの足に、黄色く変色した伸びた爪、指は縮こまっている。おそらく男の足だ。黒い衣をまとっている。僧侶が着るような法衣に思えた。男はうしろから壺を抱き込むようにして、しがみついていた。

(『京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く』P.23より)

八尋が壺の中で見たものとは?
邪霊が呪詛の大本なのか、呪詛によって引き寄せられただけの邪霊なのかもわかりません。

八尋は、「来歴のわらかんものをやたらに祓うわけにいきません」と依頼人に断り、一旦帰って調べることを告げました。

近所にある黒柿家の菩提寺の住職に、壺のいわれを聞きに行った帰り、二人の前に、すらりとした長身で制服姿の少年が現れました。凪高良(なぎたから)です。高良は、中国で呪詛によって生み出された蠱物(まじもの)『千年蠱(せんねんこ)』で、何度も生まれ変わりを繰り返していると言います。

澪が邪霊に襲われそうになるとどこからともなく現れ助けてくれる謎の存在です。
そして、二十歳までに生きられないという呪いを解くには、『千年蠱』の高良を殺せと。(「壺法師」)

紹介した「壺表題作「春に呪えば恋は逝く」では、一乗寺川の支流に架かる朽ちた小橋にいるという邪霊を蓮と澪が二人で祓おうとします。

「龍神の花嫁」では、滋賀と京都の県境にある木沢村で幽霊が出るという噂があり、村役場から調査の依頼を受けた八尋と澪、心霊スポット巡りをする蓮と出流も合流して……。

蓮と出流の珍コンビが着物を着た幽霊をお祓いする「番外編 枯色桜」も、何ともいえない可笑しさがあり、秀逸。

高良には、和邇(わに)学園の高校生で、二十代半ばの青年和邇青海(おうみ)が世話役として付き従っていました。

本書では、青海の妹で、澪の同級生となる波鳥(なとり)や、蓮の同級生として日下部出流(くさかべいずる)が登場し、物語はさらに広がりを見せ、興趣を高めています。

2巻目にして、邪霊が溢れる古都を舞台に繰り広げられる蠱師たちの闘いぶりがエスカレートして、ますます面白くなりました。

京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く

白川紺子
PHP研究所 PHP文芸文庫
2022年7月20日第1版第1刷発行

装丁:こやまたかこ
装画:げみ

●目次
壺法師
春に呪えば恋は逝く
龍神の花嫁
番外編 枯色桜

本文284ページ

文庫書き下ろし

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『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』(白川紺子・PHP文芸文庫)
『京都くれなゐ荘奇譚(二) 春に呪えば恋は逝く』(白川紺子・PHP文芸文庫)
『後宮の烏』(白川紺子・集英社オレンジ文庫)

白川紺子|小説ガイド
白川紺子|しらかわこうこ|小説家 1982年、三重県生まれ。 同志社大学文学部卒業。 2011年、154回Cobalt短編小説新人賞入選。 2012年、「嘘つきな五月女王(メイ・クイーン)」で、2012年度ロマン大賞を受賞し、2013年、同...