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父の行方不明の秘密は、『万葉集』の歌に隠されていた

『からころも 万葉集歌解き譚』

からころも 万葉集歌解き譚篠綾子さんの文庫書き下ろし時代小説、『からころも 万葉集歌解き譚』(小学館文庫)を献本いただきました。

江戸・日本橋の薬種問屋の小僧・助松が、一年半前に行方不明になった父から託された日記に記された六首の和歌の秘密を解くために、『万葉集』を学び始めるというユニークな設定の時代小説です。

助松の父・大五郎は日本橋の薬種問屋・伊勢屋の手代だったが、一年半前に富山に出かけ行方不明となった。一人残され伊勢屋の小僧となった助松は、父から誰にも見せぬように言われた日記を預かっていた。なかには万葉集の和歌も綴られていた。助松に歌の意味を教えたのは、伊勢屋の娘しづ子と客の葛木多陽人だった。ある偶然から、しづ子は大友主税と名乗る侍と知り合い、頼まれて歌の手ほどきをするようになるが、今度はしづ子が家を出て行ってしまう。そして大五郎としづ子の失踪には、関係があった。二人の行方は? 万葉和歌の魅力を伝える新シリーズ!
(カバー裏の内容紹介より)

『万葉集』というと、「令和」の元号の出典となったことで、今、注目されています。

賀茂真淵に師事しているしづ子から、助松は歌の解釈を学びます。真淵は、九代将軍徳川家重の弟、田安宗武の和学御用として仕える、江戸時代で最高の『万葉集』研究者でした、

「大伴旅人公のお歌に、梅の花を詠んだものがあるの。それを教えましょう」
「ありがとうございます」
「梅の花は旅人公に限らず、『万葉集』の頃は多くの人が歌に詠んでいるの。その中で、梅の花がどう言われているかというとね」
 そう前置きした後、
「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす」
 まるで祝詞でも唱えるような格調の高さで、しづ子は告げた。これは、梅の宴で詠まれた歌の前に書かれている題詞なのだという。

(『からころも 万葉集歌解き譚』「時の鐘」P.92より)

万葉集を学び始めた助松の前に、もう一人の先生葛木多陽人(かつらぎたびと)が登場します。

しづ子の父で、伊勢屋の主人平右衛門の腰痛を完治させたことから、伊勢屋における最も重要な客の一人となっていました。

京都生まれ京都育ちの占い師で、陰陽道を学び、易や風水に詳しく人相や手相も見る。薬の知識もあり、医者の真似事のようなこともする、超イケメンです。

 助松はしづ子が歌をよくすること、そのしづ子に歌を教えてもらって嬉しかったことを話した。
「ほーお、助松はんは歌が好きなんどすか」
 多陽人は興味深そうに目を向けて尋ねる。
「いえ、おいらは好きも嫌いも分からないんですけど、ただお嬢さんの話を聞くのは面白いです」

(『からころも 万葉集歌解き譚』「時の鐘」P.17より)

助松は、自分がうろ覚えで歌の一部しか思い出せない歌を、『万葉集』の四千五百首から引き出して暗誦してみせた多陽人に尊敬の眼差しを向けました。

学生時代に古文が苦手で『万葉集』を敬遠していましたが、この機会に助松と一緒に、『万葉集』の歌の世界に触れたいと思います。

からころも 万葉集歌解き譚

著者:篠綾子
小学館文庫
2020年5月13日第一刷発行
文庫書き下ろし

カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:チユキ・クレア

●目次
第一首 からころも
第二首 あしひきの
第三首 わが園に
第四首 青旗の
第五首 しなざかる
第六首 みやじろの
第七首 天地の
第八首 春過ぎて

本文311ページ

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『からころも 万葉集歌解き譚』(篠綾子・小学館文庫)

篠綾子|時代小説ガイド
篠綾子|しのあやこ|時代小説・作家 埼玉県生まれ。東京学芸大学卒業。 2001年、第4回健友館文学賞『春の夜の夢のごとく――新平家公達草紙』でデビュー。 2005年、短編「虚空の花」で第12回九州さが大衆文学賞佳作受賞。 2017...