「源氏物語殺人事件」で、紫式部と清少納言が推理比べ

『薫大将と匂の宮』

薫大将と匂の宮岡田鯱彦(おかだしゃちひこ)さんの長編時代ミステリ、『薫大将と匂の宮』(創元推理文庫)を入手しました。

本書は、『源氏物語』の主人公光源氏ゆかりの二人の貴公子、薫大将と匂の宮が織りなす物語「宇治十帖」の世界を舞台にした、平安朝ミステリです。

薫大将と匂の宮、光源氏の亡き後に二人の貴公子が織りなす物語こそ『源氏物語』でも名高き「宇治十帖」である。千年以上に亘って未完とされていたその『源氏物語』には、驚くべきことに幻の続編が存在した。貴公子たちの恋の鞘当てが招く、美しき姫君たちの死。平安の宮中を震撼させる怪事に、紫式部と清少納言が推理を競う。絢爛たる長編小説を表題に据えた王朝推理傑作選。
(カバー裏の内容紹介より)

本書は、長編「薫大将と匂の宮」と、『源氏物語』に題材を得た「艶説清少納言」「「六条の御息所」誕生」「コイの味」の短編3編、関連エッセイ3編を収録しています。

著者は、1907年東京生まれで、東京帝国大学卒業後、東京学芸大学などの教授を務めた日本古典文学の研究者で、その傍ら、いくつかの探偵小説を発表されました。

表題作の「薫大将と匂の宮」は、『宝石』誌の昭和二十五年(1950)四月号に掲載された作品です。

(前略)この書物が源氏五十四帖の未完成物語を完結せしめているばかりかでなく、実にこれは千年の昔に書かれた――恐らく、いや確かに、世界で一番古い――探偵小説であるからなのである。しかも、作者紫式部が探偵となって奇怪な犯罪を探求するという珍らしいもので、いわば本格探偵小説といってもいいかと思われる内容である。ともかく、ポウ、ドイルより九百年も昔に、わが国にいわゆる本格探偵小説があり、デュパン、ホームズの向こうを張って、『めぐりあいて』の歌の作者が自ら私立探偵の役目をはたして活躍しているというだけでも、われわれ探偵小説愛好家にとって愉快な話題ではないだろうか。

(『薫大将と匂の宮』P.15より)

本書は、源氏物語マニアの著者が十三年前に本郷通りの書店で、「宇治十帖」の続編と思われる古書を手に入れたところから始まります。

国文学の学究の徒であるとともに、子供のころから探偵小説好きで探偵作家の卵である著者は、欣喜雀躍して、現代語に翻訳して驚くべき物語を綴っていきます。紫式部に代わり「宇治十帖」が未完成だった理由を明らかにしていきます。

 私の物語の愛読者たちも知っておられる、静かな宇治の朝霧を破ってこのわずか一ト月の間に起こった連続の三つの殺人事件――否、それは殺人といわれ、自殺といわれ、未だに真相はわからないのであるが――あの奇怪な事件に原因があるのだ。(後略)

(『薫大将と匂の宮』P.36より)

私、古典文学の全くの門外漢ながらも、『源氏物語』の登場人物たちが、この殺人事件の当事者(殺された、あるいは自殺した当人たちと、殺人者と目される人物)となっていくというストーリーが大いに気になります。そして、紫式部と清少納言による推理比べにも気がそそられます。

薫大将と匂の宮

著者:岡田鯱彦
創元推理文庫
2020年3月19日初版

カバーイラスト:千海博美
カバーデザイン:山田英春
挿絵:鈴木朱雀

●目次
薫大将と匂の宮
艶説清少納言
「六条の御息所」誕生
コイの味

エッセイ
恋人探偵小説
清少納言と兄人の則光
「六条の御息所」誕生――について

解題
時空の歪み――その魅力的なあわいに――
森谷明子

本文364ページ

1955年、東方社より単行本化。
扶桑社文庫版(2001年刊行)もあります。

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『薫大将と匂の宮』(岡田鯱彦・創元推理文庫)
『薫大将と匂の宮―昭和ミステリ秘宝』(岡田鯱彦・扶桑社文庫版)

岡田鯱彦|時代小説ガイド
岡田鯱彦|おかだしゃちひこ|国文学者・推理小説家 1907年-1993年。東京府生まれ。東京帝国大学卒業。 1949年、「妖鬼の咒言」が雑誌『宝石』の第3回探偵小説募集の選外佳作に、「噴火口上の殺人」が雑誌『ロック』の第2回検証探偵小...