「絵師とは何ぞや」応挙の時代を生きた、京狩野家六代目

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群青の闇 薄明の絵師三好昌子(みよしあきこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『群青の闇 薄明の絵師』(時代小説文庫)を入手しました。

著者の三好さんは、『京の縁結び 縁見屋の娘』で第15回『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞を受賞し、デビューした新進気鋭時代小説家です。

町絵師の子として育った諒(りょう)は、京狩野家の絵師・五代目狩野永博の許へ弟子入りをする。諒の才能に惚れこんだ永博は自分の娘・音衣(ねい)と結婚させ婿養子として迎えた。京狩野家の六代目絵師として邁進していたが、妻との関係が冷めていくうちに、諒を兄と慕う幼馴染みの夜湖(やこ)といつしか男女の関係になっていた――。
一方で、「豊臣家の宝」とも呼ばれ、岩絵具にすると深い群青色を出すといわれた幻の輝石「らぴす瑠璃」が京狩野家に密かに伝えられているという噂を耳にする。「絵師とは何ぞや」。その答えを求め続ける男たちと、様々な思惑の中で苦悩する女たちを描いた、書き下ろし時代小説。
(本書カバー裏の紹介文より)

本書の主人公は、京狩野家の六代目・狩野永諒を名乗る、二十九歳の若手絵師・諒。
五歳のときに町絵師の父・栄舟と母・お瑤と死別し、父の絵の贔屓筋の長崎問屋「唐船屋」宗太夫に育てられました。諒が引き取られた時に産まれて半年だった夜湖は、以来、妹のような存在でした。

宗太夫は諒の画才を見抜き、彼が八歳になる頃、五代目狩野永博の許に弟子入りをさせています。永博は自らの手で絵師として育て上げた諒を、迷うことなく、一人娘・音衣の婿にしました。

ところが、音衣には夫婦約束を交わした男がいるが、諒を永博の後継者にするためだけに祝言を挙げるので、指一本触れないでほしい、と言い渡されます。
二人は、狩野家を守るためだけに夫婦となりました。

 突然、夜湖の両手が彼の顔を挟んだ。潤んだ目が、咎めるように見つめている。
「絵のことを考えてはったんやろ」
「夜湖には私の頭の中が見えてるようやな」
 諒は笑った。
「よう見えますえ。いつも絵のことしかあらへん。いっそ、諒さんから絵を奪ってしまいとうおす」
「絵が描けんようになったら、私の価値は無うなる。狩野家にいる意味もあらへん」
(『群青の闇 薄明の絵師』P.12より)

明和六年(1769)の京。円山応挙が趣味人たちの人気を集める時代。
物語は、諒を中心に、妻の音衣、幼馴染みの夜湖、永博の弟子・永華という四人の男女を中心に展開していきます。

「絵師とは何ぞや」の答えを求めて、もがき苦しむ絵師を色彩感豊かに描いています。幻のの岩絵具と諒の実の親の死の真相など、謎解きの要素も加わり、関心が尽きないところ。

本書に掲載されたプロフィールによると、1958年、岡山県生まれで大阪府在住、嵯峨美術短期大学洋画専攻科卒業だそう。そのバックグラウンドから、臨場感のある、絵師の世界を描写していく素地が備わっているように思われます。

なお、諒のモデルは、京狩野派六代目、狩野永良と思われます。

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『群青の闇 薄明の絵師』(三好昌子・時代小説文庫)
『京の縁結び 縁見屋の娘』(三好昌子・宝島社文庫)