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『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』

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業火の中で花魁と交わした約束を守るため火消は…。

夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組祥伝社文庫から刊行された、今村翔吾さんの文庫書き下ろし時代小説、『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』を紹介します。

新庄藩火消組、通称ぼろ鳶組の活躍を描く、痛快時代小説シリーズの第六弾です。

花魁・花菊は死を希った。吉原の大見世で最高位の花魁となるも、やはりここは苦界でしかない。父母と彼岸での再会を望み、燃え盛る妓楼に身を置いた。だが紅蓮の炎に飛び込んできた男がいた。花菊は業火の中、ぼろ鳶組纏番・彦弥と運命の出会いをする――。

 欲に負けてゆきずりの女と寝る自分、長手拭いを見てお夏を思い出す自分、お七がくれた木札を馬鹿にされて怒る自分。どれも真であり、どれも嘘に思えて来る。軽業で観衆から喝采を浴びている時ですら、
――これは本当の俺じゃねえ。
 と、腹立たしく思えてくることもある。唯一無心でいられるのは、火消として誰かを救うべく奔走している時だけかもしれない。
(『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』P.21より)

今回の主人公は、ぼろ鳶組一の色男、纏番組頭彦弥です。
非番の日、まだ帰りたくない気分で、思い出のある場所、待乳山にきたところで、半鐘がけたたましく鳴り響く音を聞きます。

「――その願い、全て俺が叶える」
「そんなこと……」
「だから生きろ。生きてたらきっといいこともある」
 男はやはり笑った。その笑顔は息を呑むほど眩しく、花菊は思わずこくりと頷いた。男は手を差し伸べて続ける。
(『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』P.31より)

彦弥は、妓楼の二階の押し入れに身を隠し続けていた花魁・花菊を助け出そうとします。ところが、花菊は何一つ願いが叶えられない現世で生きることに絶望し、死をもって苦界(吉原)と別れようと考えていました。

燃え盛る炎の中で彦弥は、花菊から五つの願いを聞き出し、全ての願いを叶えると約束します。そして、灼熱地獄から花菊を救い出します。

「彦弥さんに吉原へ来て頂きたいのです」
「それは遊びにということではなく……」
「火消としてということです」
 想像の範疇を超えていたので、暫しの間声も出なかった。
「それは吉原火消になれということでいいんだな」
「はい。私の代わりに、吉原火消の頭を務めて頂きたいのです。俸給は年に二十五両」
(『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』P.75より)

吉原の火事場で活躍した彦弥に、吉原火消頭の矢吉から自分の代わりに、頭を務めて欲しいと頼まれます。

ぼろ鳶組の頭取松平源吾らと一緒に詳しい事情を聞くと、吉原では最近火付けが頻発し、下手人の見当もつかないという。

しかも、妓楼が焼ければ、廓の外で仮宅を構えることが認められ、幕府に納めるべき税が全て免除されます。そのため、楼主(忘八)たちは、燃えれば儲かると思っています。
吉原火消は火を消さないことを期待されているといいます。

「矢吉、やっぱり俺は吉原火消にはなれねえ」
 彦弥は矢吉を見据えて言い切った。
「はい……」
「だが、焼けるのを喜ぶ忘八どもや、火に手加減する吉原火消、そして火付けをしようって輩……どいつもこいつも胸糞が悪い。御頭」
 彦弥は矢吉から目を離さぬままに呼んだ。
「おう」
「暫く暇をくれませんか。ちょっくら廓に乗り込んで片付けてきます」
(『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』P.84より)

「俺も聞いているだけで腸が煮えくり返っていたのさ。眠てえ野郎どもの目を覚ましてやる」という頭取の源吾は、彦弥と壊し手組頭の寅次郎を従えて、吉原に乗り込むことに。
 同じ頃、新庄藩に老中の田沼意次から直々に文が届きます。

――吉原に不審な火事が多発しておる。方角火消大手組新庄藩は、吉原火消を援けて真相を暴き、事を鎮めるように。
(『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』P.95より)

ところが、吉原には既に、さる方の命で、火消番付に載る「唐笠童子」の異名をもつ、麹町定火消頭、日名塚要人が内密の調査に入っていました……。

物語では、彦弥らが、吉原で生活する人たちに聞き込みをして、火付けの下手人を探して追い詰めていきます。誰が敵で、味方なのかもわからず、読み出したら止まらない面白さです。

吉原ならではの風俗も巧みに織り込まれていて、吉原を舞台にした時代小説としても出色の出来です。

◎書誌データ
『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』
出版:祥伝社・祥伝社文庫
著者:今村翔吾

カバーデザイン:芦澤泰偉
カバーイラスト:北村さゆり

初版第1刷発行:2018年8月20日
760円+税
428ページ

文庫書き下ろし

●目次
序章
第一章 花の牢獄
第二章 不夜城
第三章 吉原火消
第四章 遊里の闇
第五章 転(うたた)
第六章 女の夢
第七章 谺彦弥(やまびこひこや)
終章
解説・縄田一男

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『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫)
『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫)(第1作)