江戸が泣いた、幼子三人の身投げの謎を追う、シリーズ完結編

江都落涙 宗元寺隼人密命帖 四講談社文庫から出た新刊、荒崎一海(あらさきかずみ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『江都落涙 宗元寺隼人密命帖 四』を紹介します。

老中松平和泉守乗寛の甥で、剣客・宗元寺隼人(そうげんじはやと)が活躍する、時代小説シリーズの第四弾です。

新月の夜、屋台で十六文の二八蕎麦一杯を仲良く食べていた幼い三人がそろって大川に身を投げた。たがいの袖に腕をいれ、けっして離れまいとする三人。あまりの出来事に江戸じゅうが嘆いた。
一方、隼人は叔父の老中松平和泉守に呼ばれ、新たな密命を受けるが、帰路、またしても忍に襲われる……。

隼人が新堀川に架かる一之橋で、正体不明の四人の忍に襲われて返り討ちにするところから、物語は始まります。
隼人の剣はますます冴え、前作から続く謎はますます深まっていきます。

時代設定は、文政六年(1823)七月。老中首座水野出羽守忠成が権力を握っていました。忠成は、寺社奉行水野和泉守忠邦(後に天保の改革を断行する水野越前守忠邦)を、辞任する老中の後釜に据えようと目論んでいました。
そんな中で、反水野派の松平和泉守乗寛は、権力欲の強い忠邦に懸念を持っていて、隼人に密命を与えます。

同じころ、隼人は江戸の人々を嘆き悲しませた、幼いきょうだい3人が身投げした事件を耳にします。
3人の子を養っていた伯母・もんは前日夜から家に帰らないでそのまま姿を消している。もんは二十七歳で美人、働いている様子がなく、月に二度、三度ほど泊りがけででかけるという。
隼人は、馴染みの北町奉行所定町廻り同心の秋山平内に依頼されて、もんの探索を手助けすることに

「昨日の昼すぎ、もんがでかけた刻限ごろ、両国橋東広小路より竪川ぞいを行き、六間堀川におれて、御籾蔵よこを歩いてみた。右斜めまえに、大川を背にしてならぶ屋台のはずれに二八蕎麦の屋台があった。三人が跳びこんだところには花束がつまれ、線香から白い煙がのぼっておった。御籾蔵のかどで見ていたが、手をあわせるだけでなく、腰をかがめて祈る者が幾名もいた」
(『江都落涙 宗元寺隼人密命帖 四』P.87より)

江戸時代、七歳までに病気で亡くなる子供が多いこともあり、社会として子供を大切にしていたそうですが、本書からもそんな事情が伝わってきます。奉行所も事件解明に向けて全力を挙げて捜査をしています。

本書の特徴の一つは、引用にもあるように、主人公の隼人が探索のため(ときには刺客の囮となるために)町歩きをすることです。そのため、江戸の地理関係が丹念に描かれています。著者はあとがき「江戸への旅」で明かしています。

 江戸の地理を描写するのにもっぱら参照しているのが『復元・江戸情報地図』(児玉幸多・監修、朝日新聞社)で、併用が『切絵図・現代図で歩く 江戸東京散歩』(人文社)と、『江戸切絵図と東京名所絵』(白石つとむ・編、小学館)だ。
(『江都落涙 宗元寺隼人密命帖 四』P.377より)

探索を進めていくながで、もんは本芝の海で水死体として発見されます。
もんの死の謎は、やがて隼人の密命に関わっていきます。

 まんなかが上体をひねりながら薙ぎにくる。
 無心が雷光と化す。
 敵の左二の腕を裂き、切っ先が左胸に消える。着衣と、肉と、骨と、心の臓とを断って奔る。
 左足を引き、抜けた無心を燕返し。ふたりめの右脾腹から左肩へ。裂けた斬り口に血が滲み石榴の実と化す。
「ぎゃーっ」
「死ねーッ」
 三人めが突きにきた。
 白刃の切っ先が毒蛇の牙と化して右肩に迫る。
 左足を右足の前方へおおきく踏みこみ、右肩を引く。敵の切っ先が右肩に触れんばかりにすぎる。右足を左足へもっていく。左手で弧を描かせた無心に右手をそえる。まえのめりになった三人めの右頸を断つ。
 血が迸る。
(『江都落涙 宗元寺隼人密命帖 四』P.231より)

本書の真骨頂は、隼人が振るう無心水月流の剣。
「無心」は隼人の差料で二尺二寸(約66センチメートル)の剛刀です。刺客を「まんなか」「ふたりめ」「三人め」とぞんざいに呼び、短い文で畳みかけるように描写される、そのチャンバラシーンは圧巻で、爽快感すらあります。

謎と人情と圧倒的な剣戟シーンで彩られたこのシリーズも本書が完結編となります。
謎と伏線が幾重にも張り巡らされていて、読み応えのあるシリーズ。完結編の本書を読み終えた後にも謎が残っているような気がして、もう一度、最初から読んでみたくなりました。

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『無流心月剣 宗元寺隼人密命帖 一』(荒崎一海・講談社文庫)
『幽霊の足 宗元寺隼人密命帖 二』(荒崎一海・講談社文庫)
『名花散る 宗元寺隼人密命帖 三』(荒崎一海・講談社文庫)
『江都落涙 宗元寺隼人密命帖 四』(荒崎一海・講談社文庫)