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なにわ人情謎解き帖 烏検校

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地震が襲った幕末大坂で、大吾とお駒が難事件に挑む

なにわ人情謎解き帖 烏検校加瀬政広(かせまさひろ)さんの時代小説、『なにわ人情謎解き帖 烏検校(からすけんぎょう)』(双葉文庫)を紹介します。

西町奉行所吟味役同心の鳳大吾(おおとりだいご)と、梓巫女見習いの盲目の娘・お駒の二人がコンビを組んで、幕末大坂を舞台に、難事件に挑む「なにわ人情謎解き帖」シリーズの第2弾です。

幕末の大坂を大地震が襲った。町奉行所同心の鳳大吾は津波に呑まれ、罪人四名を逃がしてしまう。その中には女三人を殺めた「烏検校」なる下手人がいた。
七日以内に全員を見つけなければ切腹を命じられるが、謎解きの相棒である梓巫女見習いのお駒は、眼の手術をしたばかりで生死すら分からない。
はたして大吾は罪人らを捕らえることができるのか?

時代は嘉永七年(1854)十一月。幕末の大坂を大地震が襲います。
後に安政南海地震と呼ばれ、約32時間前に発生した安政東海地震とともに南海トラフ巨大地震の1つとされています。

江戸で発生した、安政の大地震はいろいろな時代小説に描かれてきましたが、安政南海地震を描いた時代小説はあまりないように思います。

 夕七つ過ぎ(午後四時)、ドンと、突然の突き上げるような衝撃を皮切りに、松屋町牢の長い回廊の柱、板壁が軋んだ音を立て揺れ始めた。大吾は壁に手をつき、パラパラと土ぼこりが舞い落ちる天井を見上げた。
(昨日に続いて、またか)
 
(『なにわ人情謎解き帖 烏検校』P.14より)

大吾は隠岐に配流される四人の罪人を船着き場へと護送する仕事を命じられます。

三カ月前に大坂を震撼させた烏検校事件の下手人、按摩の呉市(くれいち)。
医者でありながら、薬種問屋の番頭を殺め、大吾がお縄にした、佐伯道順。
女を巡って人一人殺した、表具屋の三男坊、大黒屋佐太郎。
まだ子供の面影が残る、盗人で破落戸の仁助。
本来、流人役同心の仕事が、二人の同心がそろって腹を下したことから、そのお鉢が大吾に回ってきました。

「むっ?」
 大吾は足を止めた。目の迷いか。否――
 安治川が突如、盛り上がった。停泊中の数隻の北前船が水面と共に持ち上げられ、傾いで、甲板をこちらに向け始めた。船上から蟻ほどに見える黒いものがパラパラと川面に落ちる。
 人だ。
「止まれ! 津波や」
 振り向きざま大吾は叫び、元来た道を駆け出す。
 
(『なにわ人情謎解き帖 烏検校』P.20より)

地震による津波が安治川にやってきます。
大吾は唐丸駕籠に入れられた四人の罪人を駕籠から出し、皆の手の縄を解き、四人を自分と腰縄でつなぎます。
その後、すさまじい勢いで黒い水がやってきて、第二の波が大吾ら一行を襲います。

津波に呑み込まれた大吾。四人とつないでいた縄は途中でぷっつりと切れています。
四人を逃がす失態を犯した大吾は、流人役与力から七日の内に四人を見つけられなければ、切腹と命じられ、配下の同心・伊吹兵庫が見届け人に付けられます。

「お侍様が、わしらの仕事の手伝いやなんて、勿体ない事でやす。これ、旨うもない、ただの塩むすびでっけど、よろしかったら一つ食べてやってください」
 男は盆の上、大皿に載った握り飯を差し出した。
 大吾は手を振った。
「あんたらはこれからもこの惨状の中、踏ん張らなあかん身や。俺らみたいな気まぐれやない。侍なんぞより、この大坂を立て直す要は、あんたらや。そんな、あんたらから頂く訳にはいかん。心配ご無用や。ちゃんと用意してある。それより、あの娘は?」

(『なにわ人情謎解き帖 烏検校』P.114より)

大吾は逃げた罪人を探しをする途次に、瓦礫の山に幼い娘の母親が埋まっているかもしれないと知り、瓦礫の取り除き作業を手伝います。大吾の優しさが伝わってきます。
災害時に人としていかに振る舞うべきか、教えられた想いがします。

さて、一方のお駒の前には、眼医者の風間一直の知り合いで若い男が現れます。

「申し遅れました。わたしは、長門国は萩より参った桂小五郎と申します」
 聞いてもいないのに男はそう名乗る。
「なんで、そんな遠いところから?」
「殿の遣いとして参りました」
 少々自慢げに小五郎は胸を張った。

(『なにわ人情謎解き帖 烏検校』P.151より)

第1作の『天満明星池』は短編連作形式の時代ミステリーでしたが、本書は長編小説のスタイルをとっています。

刻一刻と時が過ぎていく中で、さまざまな事件が起こります。大吾は首尾よく四人の罪人を見つけることができるのか、ハラハラドキドキします。
お駒の眼の手術の術後の経過とともに、初めての恋も描かれていきます。

折しもこの夏(2018年)、6月に大阪北部地震が発生し、7月の西日本豪雨では広範囲にわたって、大きな被害が出ています。

本書は、時代ミステリーとしてエンターテインメント性が高いですが、大災害で被害に遭い再起を目指す人たちを勇気づけるような温かさをもった物語にもなっています。

◎書誌データ
『なにわ人情謎解き帖 烏検校』
著者:加瀬政広
双葉社・双葉文庫
第1刷発行:2018年6月17日
ISBN978-4-575-66895-7
本体611円+税

カバーデザイン:大岡喜直(next door design)
カバーイラストレーション:山本祥子
290ページ

初出 「小説推理」2018年2月号~5月号

●目次
第一章 兎と大黒
第二章 八咫烏
第三章 和光寺阿弥陀池
第四章 佐伯道順
第五章 当道座
第六章 三千世界

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『なにわ人情謎解き帖 天満明星池』(加瀬政広・双葉文庫)
『なにわ人情謎解き帖 烏検校』(加瀬政広・双葉文庫)