2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

医を学びながら、母としての自覚を深めていくおいちの成長を描く

アドセンス広告、アフィリエイトを利用しています。
スポンサーリンク

『おいち不思議がたり 紅色の幻』|あさのあつこ|PHP研究所

おいち不思議がたり 紅色の幻あさのあつこさんの大人気時代小説「おいち不思議がたり」シリーズの第7弾『紅色の幻』(PHP研究所)を紹介します。

おいちは昔から、既に亡くなった者の訴えが聞こえたり、姿が見えたりする、不思議な力を持っています。いつでも誰にでもというわけではなく、この世に訴えを残して去った者の懸命な声をかすかに聞き、その姿を束の間見るのです。
また、生きている者が今後巻き込まれるかもしれない危うい気配も感じ取ることができます。ただし、その気配がどのようなものかまでは分からず、後ろ姿が黒い靄に包まれて見えたり、黒い穴に吸い込まれるように感じられたり、紗のような薄い幕がかかっているように見えたりするなど、まちまちな様相を示すだけです。その靄や穴、幕が何を意味するのかまでは見通せません。

しかし、おいちが見るそうした不思議な光景は、事件解決の糸口となってきました。“剃刀の仙”と呼ばれる凄腕の岡っ引・仙五朗は、これまでにもおいちの力を頼りに多くの事件を解決してきたのです。

あらすじ

飾り職人の夫・新吉が帰ってこない――。
不安に駆られたおいちでしたが、新吉は朝になって、何事もなかったかのように家に戻ってきました。 しかし、新吉が言付けを頼んだ職人らしき人物が、菖蒲長屋の近くで殺されていたことが判明します。しかも、その懐には、きれいなビードロの風鈴がしのばせてありました。 おいちは、身重であることも忘れ、岡っ引の仙五朗とともに事件の解明に乗り出します。
そんな折、おいちは石渡塾で共に学ぶ和江が、血飛沫を浴びたかのように紅く染まった幻を見る場面に立ち会います。それは何かの予兆なのか。おいちは忍び寄る禍々しい気配に身をすくませるのでした。

(『おいち不思議がたり 紅色の幻』Amazonの内容紹介より)

ここに注目!

今回、おいちの夫で飾り職人の新吉の同僚・正助と思われる男が、六間堀の近くで何者かに首を鋭利な刃物で切り裂かれて殺される事件が起こります。
仙五朗は、おいちとその父・松庵のもとを訪れ、遺体の胸元にはビードロの小さな風鈴が添えられていたと語ります。

男を殺したのは誰か。凶器は何か。そして、天涯孤独で係累もないという正助の正体とは。謎は深まるばかりです。

一方、おいちが通う石渡明乃の医塾の後輩・加納和江は、父親との確執に悩んでいます。
和江の父は高名な漢方医で、大店の旦那衆を主な患者とする、金儲けに執着する人物です。
和江はそんな父を嫌い、父とは異なる、人のために尽くす医者を目指していました。しかし、父は和江の意思を無視して、勝手に縁談を進めていたのです……。

飾り職人の新吉と結婚し、お腹に新しい命を授かったおいち。医の道を志しながらも、母となる未来を前に戸惑いを抱え、世間の「子を産んで育てるのが女の務め」といった当たり前に振り回されながら、それでも前を向いて生きようとします。

本書では、松庵のもとで医を学び、患者と向き合いながら母としての自覚を深めていくおいちの成長が描かれます。
また、松庵と義理の姉・おうたの漫才のような掛け合いの面白さや、それに絶妙なツッコミを入れるおいちとの三人のやりとりもユーモアにあふれ、互いに信頼している者たちが醸し出す居心地の良さも、シリーズの大きな魅力です。

書籍情報

おいち不思議がたり 紅色の幻
あさのあつこ
祥伝社・PHP研究所
2025年6月19日 第1版第1刷発行

装丁:こやまたかこ
装画:丹地陽子

目次

風鈴の音
謎の男
紅色の幻
謎に絡む謎
戦うために
謎の始まる場所
解けるのか、絡まるのか
殺すこと

本文313ページ

初出:
月刊文庫『文蔵』2023年9月号~2025年1・2月号の連載「おいち不思議がたり 誕生篇」を改題し、加筆・修正したもの

■今回紹介した本


あさのあつこ|時代小説ガイド
あさのあつこ|時代小説・作家1954年、岡山県生まれ。青山学院大学を卒業後、小学校講師を経て作家デビュー。1997年、『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞。1999年、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞を受賞。2005年、『バッテリー』...