『巌流の里』|森田健司|松柏社
森田健司(もりた・けんじ)さんの時代小説、『巌流の里』(松柏社)を紹介します。
巌流の流祖・佐々木小次郎の後日談を描く表題作をはじめ、全五編を収録した時代短編集です。本作が著者の時代小説デビュー作となりました。
著者について
森田健司さんは、長年にわたり夕刊紙の記者兼編集者を務めたのち、日本歴史時代作家協会理事として活躍。映画マニアとしても知られ、日本映画ペンクラブ幹事を務め、映画に関する著作も発表しています。
本書に収められた短編の一部は、日本歴史時代作家協会の合評会で高く評価されたもので、収録にあたり大幅に加筆修正されています。
合評会で評価を受けて、出版した作品には、山上安見子(やまうえ・やすみこ)さんの時代小説短編集『喫茶去(きっさこ) ちゃちゃと利休』(牧野出版)もあります。
あらすじ
越前・宮島村の百姓吾乃助は、半日ほど歩いた先の浄教寺村で、上松仁左衛門が若い武芸者と立ち合うと聞き、その立ち合いを止めようと仁左衛門を訪ねます。
仁左衛門は、三十四年前に宮本武蔵との決闘で命を落とした剣豪・佐々木小次郎の高弟で、現在は百姓として暮らしていました。
吾乃助はかつて小次郎の身の回りの世話をする下男として働き、百姓出身を他の弟子たちに虐められていたところを仁左衛門に幾たびも助けられました。
老齢を顧みず、なぜ孫ほども若い武芸者と闘おうとするのか――。老武芸者の矜持と闘いぶりを描いた表題作をはじめ、全五編を収録しています。
(本書カバー裏の説明文ほかより抜粋・編集)
ここに注目!
表題作の完成度の高さには驚かされました。六十三歳の仁左衛門と若い武芸者が立ち合いに向かうまでの張りつめた緊張感や、佐々木小次郎にまつわる秘められた真実など、読者を惹きつけ、最後まで一気に読ませる力があります。
かつて小説雑誌に短編小説が盛んに発表されていた頃の剣豪小説を彷彿とさせる面白さが詰まっています。
「今宵お山は人盛り」は、地方小藩の下級藩士をめぐる猥雑さとブラックな結末が魅力の一編。
「笛吹き天一坊」は、徳川八代将軍吉宗の御落胤を名乗って浪人を集め、捕らえられた天一坊事件を題材に、周囲の庶民たちの声談話を通してその素顔を浮かび上がらせる短編で、記者経験を持つ著者ならではの作品です。
なかでも印象に残ったのは「蔵の中」と「磔刑の女」。いずれも御用聞きの龍太を主人公とし、北町奉行所の同心・北神創太郎とともに展開するアクション捕物小説です。
ハードボイルドな文体が作品世界にぴたりと合い、ページをめくる手を止めさせません。協会活動で見せる姿とはまた異なる、著者の新たな才能が開花したと感じました。
龍太と北神のコンビによる連作小説集を、ぜひ読みたいと強く願っています。
今回取り上げた本
書誌情報
巌流の里
森田健司
松柏社
2025年9月25日初版第一刷発行
装丁:常松靖史 [TUNE]
編集協力:加藤淳
目次
巌流の里
今宵お山は人盛り
笛吹き天一坊
蔵の中
磔刑の女
本文235ページ







