2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

【新着本】文芸社文庫2025年6月の新刊。左甚五郎と筒井順慶

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『みぎての左甚五郎』『筒井順慶の悩める六月』

2025年6月上旬に刊行された、文芸社文庫の新刊2冊をご紹介いたします。

白蔵盈太(しろくら・えいた)さんによる『みぎての左甚五郎』は、伝説の彫り物職人・左甚五郎を主人公とした痛快時代小説です。

中南元伸(なかみなみ・もとのぶ)さんの『筒井順慶の悩める六月』は、本能寺の変の後、明智光秀に与するか豊臣秀吉に従うかを迷い、“日和見武将”と呼ばれた筒井順慶の姿を描いた戦国歴史小説です。

奇しくも今月の新刊は、文芸社が主催する第3回歴史文芸賞(2020年)の最優秀賞受賞作『松の廊下でつかまえて』と、優秀賞受賞作『覚慶救出』の著者による、注目の競演作品となっています。

みぎての左甚五郎

『みぎての左甚五郎』(文芸社文庫)白蔵盈太
文芸社・文芸社文庫

装画:飯田研人
カバーデザイン:谷井淳一


あらすじ

「この男の右に出る者はいない」と評される彫り物職人・左甚五郎が、世にはびこる悪党を、自らの「みぎて」で黙らせる! 旨い酒や大金で依頼されても、依頼人に惚れ込まなければ彫刻を引き受けない頑固者。ひとたび彫ると決めれば、「絶対に中を覗くなよ」と言い残し、小屋に籠る。 なまぐさ断ちをして彫り上げた木像に秘められた驚きの秘密とは? 亡き妻の幽霊を捜すという常人には理解しがたい旅の途中で、厄介ごとに巻き込まれながらも放っておけない人情家。 甚五郎が繰り広げる、笑いあり、涙あり、不思議ありの痛快時代小説、ついに開幕!

(『みぎての左甚五郎』カバー裏面紹介文より抜粋・編集)

ここに注目!

文芸社歴史文芸賞出身の著者・白蔵盈太さんは、これまで「知る人ぞ知る」存在でしたが、昨年5月に刊行された『実は、拙者は。』(双葉文庫)で一躍注目を集める気鋭の作家となりました。

その後の『一遍踊って死んでみな』(文芸社文庫)は、ハードロックのリズムに乗って念仏をシャウトする宗教者・一遍を描いた作品。時代小説を古臭いと思う若い読者や、かつてロックに心を燃やした“永遠のロック小僧”に贈る一冊です。

本作では、日光東照宮の彫刻で知られる左甚五郎(ひだり・じんごろう)を主人公に据えています。名前は広く知られていながら、その実像は謎に包まれ、各地に残る「左甚五郎作」の彫刻も、出自や時代背景がまちまちで、架空の人物とも言われています。

「生まれは飛騨高山、現在は江戸・諏訪町の大工棟梁・政五郎親方のもとに世話になっている甚五郎じゃ」と名乗り、死んだ妻の幽霊を追って旅を続ける名工。彼が行く先々で巻き込まれる事件を、心優しき“ヒーロー”として解決していく姿が描かれます。
また、甚五郎の「伝家の宝刀」ともいうべき“みぎて”の秘密にも、ぜひご注目ください。

今回取り上げた本



目次

一、毘沙門因果
二、虎搏弓張月
三、雉子盛衰記
四、蟠龍唐山門
五、恋女房浮世理
幕切 独啼比翼鳥

2025年6月15日 初版第一刷発行
本文242ページ
文庫書き下ろし

白蔵盈太|時代小説ガイド
白蔵盈太|しろくらえいた|時代小説・作家1978年、埼玉県生まれ。2020年、「松の廊下でつかまえて」(文庫刊行時に『あの日、松の廊下で』に改題)で、第3回歴史文芸賞最優秀賞受賞。2024年、『実は、拙者は。』(双葉文庫)で、2024年啓文...

筒井順慶の悩める六月

『筒井順慶の悩める六月』(文芸社文庫)中南元伸
文芸社・文芸社文庫

カバー画:歌川国芳「太平記英勇傳 槌井大和守入道順貞 筒井順慶」
カバーデザイン:谷井淳一


あらすじ

本能寺の変、勃発。大和郡山城主・筒井順慶は、織田信長に臣従していた一方で、明智光秀とも懇意にしていた。 信長の仇討ちに加勢すべきか、光秀に味方するべきか――。 恩義と家の存続、複雑な政治情勢の板挟みに悩む順慶のもとには、使者が次々と訪れ、家臣たちの思惑や大和国内の不穏な動きが押し寄せる。 刻一刻と変わる状況の中、順慶は逡巡し続ける。 山崎の戦いまでの11日間、筒井家にいったい何があったのか。 「日和見順慶」と揶揄される人物の真の姿と武将たちの駆け引きを、ユーモアを交えて描いた傑作歴史小説。

(『筒井順慶の悩める六月』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)

ここに注目!

筒井順慶といえば、京都と大坂の境にある洞ヶ峠で陣を構えて、戦況をうかがって有利なほうに味方しようとしたことから、「洞ヶ峠(を決め込む)」の語源となりました。

本能寺の変の後、光秀と秀吉が対峙する山崎の戦いまでの約11日間、どちらにも与せず逡巡したことから「日和見順慶」と呼ばれるようになり、卑怯な武将のイメージが付きました。そのため、彼を主役とした歴史小説はほとんど書かれていません。

筒井康隆さんによる中編『筒井順慶』は、SF作家が自らの先祖の名誉挽回を目指して書いた、ハチャメチャな歴史SF小説でした。

本作は、それとは異なり、順慶の内面の葛藤や苦悩をユーモアたっぷりに描き出し、読者を物語の渦へと引き込みます。

著者の中南元伸さんは、1960年奈良市生まれ。文芸社第3回歴史文芸賞優秀賞受賞作『覚慶救出』を改題した『覚慶の長く暑い夏』(Amazon Kindle)や、『歴史短編小説集 別談異話』(同)、『天誅組疾風録』(奈良新聞社)など、地元・奈良に根ざした作品を発表されています。

今回取り上げた本


目次


初日
二日目
三日目
四日目
五日目
六日目
七日目
八日目
九日目
十日目
十一日目
当日
翌日
翌々日

参考文献

2025年6月15日 初版第一刷発行

本文270ページ

本書は、単行本『筒井順慶の悩める六月』(文芸社・2019年6月刊)を加筆・修正し、文庫化したものです。

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