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ノマド調査官、日本の原風景・伊根で殺人事件の真相に迫る

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『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 丹後半島舟屋殺人事件』|鳴神響一|徳間文庫

警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 丹後半島舟屋殺人事件鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし警察小説シリーズ第5弾、『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 丹後半島舟屋殺人事件』(徳間文庫)。本書を紹介する前に、2023年9月に刊行されたシリーズ第4弾の『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件』について、少し触れたいと思います。

同書は、タイトルにあるように能登地方の輪島市から珠洲市を舞台にしています。
2024年1月1日に発生した能登半島地震の前の能登地方が旅情を込めて描写されています。名所のいくつかは今回の地震で大きな影響を受けました。
全く同じ風景はもう見られないと思うと、切なくなってきますが、小説の中で描かれたことで永遠に記憶に残るのはよかったとも思いました。

資産家の老人が遺体で発見されたのは、伊根湾名物「舟屋」に収められた和船のなかだった。地方特別捜査官の朝倉真冬は疑問を抱く。犯人はなぜ、約二百三十軒ある舟屋のなかからここを選んだのか。地元警察はこの点に迫ろうとしない。故意の捜査遅滞を疑いながら独自調査を進める真冬は、伊根湾沖の財宝引き揚げをネタにした出資詐欺事件に辿り着き――。大人気警察小説シリーズ第五弾!

(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 丹後半島舟屋殺人事件』カバー裏の紹介文より)

本シリーズでは、網走→男鹿→米沢→能登と、北海道から本州の日本海側を南下してきています。
そして、今回は京都・丹後半島が舞台になっています。
私は、天橋立も含めて丹後エリアにこれまで足を踏み入れたことがなく、本書を読むまで、伊根も舟屋も全く知りませんでした。

伊根湾めぐり遊覧船 | 伊根の舟屋へ行こう!(丹後海陸交通)
京都府北部に位置する伊根湾は古くから漁業が盛んな湾です。漁業と生活とが一体となって発展した舟屋の町並みは大変めずらしく、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。波も穏やかで、伊根の舟屋群に囲まれた伊根湾は、ゆったりとした情緒ある景...

冬晴れのある日、朝倉真冬は、明智光興審議官からの命で、伊根町で起きた殺人事件の真相を解明するために、京都丹後鉄道の天橋立駅からレンタカーで遺体発見現場に向かいました。

被害者は宮津市に住む資産家の老人で、昨秋、伊根町の「舟屋」で溺死していました。
舟屋とは切妻屋根の二階建て木造家屋で、一階に開口部分が広くとられていて、建物の下端部分は海に浸かっているという得意な形状をしていました。

殺人事件から3カ月が経ちながらも、遅々として捜査が進まず、警察庁に「事件には大きな背景がある。京都府警内部にも犯人に協力する者がいる」旨の密書も届き、明智審議官は捜査状況の調査を至急行うべきと判断したのでした。

現地で、旅行雑誌のライターを名乗って調査を始めた真冬でしたが、遺体発見現場の舟屋に侵入したところを地元の駐在所の警察官の土居に捕まり、天橋立署刑事課の長倉の尋問を受けることになってしまいました。

真冬は長倉に、発生から三ヶ月も経っているのに、捜査は少しも進展していない、不自然に捜査が遅滞していることを指摘し、長倉の捜査の進捗に関する怒りを引き出しました。そして、京都府警のなかに犯人と関係のある人物がいるとの噂があることを伝えました。

「あんた、いったい何者なんや?」
 かすれた声で長倉は訊いた。
「ライターですよ。フリーランスの」
 真冬はしれっと答えた。
 長倉の反応が見たかった。
「ウソをつくな。そんなことライターが知っているはずがないやろ。府警の恥や。絶対に許されることやない。マスメディアに漏らすような不心得者がいるはずない」
 怒りのこもった声で長倉は言った。

(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 丹後半島舟屋殺人事件』P.59より)

本書の魅力の一つは、ぶりやカニなどの伊根のおいしい食べ物が登場し旅情を誘うこと。真冬は舌鼓を打つだけでなく、親切にも、おいしいものに目がない、本部にいて調査のサポートをする部下の今川真人に食レポをして、うらやましがらせています。

「伊根の舟屋の景色は本当に素晴らしいですね。日本中のどこに行っても見られませんからね。わたしは勝手に『日本の原風景』と呼ばせてもらっています」
 真冬はあらためて舟屋の美しさに感じ入った。
「ありがとう。地元の人間としては嬉しい言葉だよ。この景色を気に入ってくれた人は少なくなくて、映画の舞台などにも多く使われている。たとえば『男はつらいよ』の第二九作でも大々的に伊根の舟屋が使われている」

(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 丹後半島舟屋殺人事件』P.143より)

本シリーズが病みつきになるのは、警察小説に加えて、旅情ミステリーが堪能できることにあります。
著者は作品の舞台となる土地に惚れ込み、その魅力を物語のなかで、巧みに描き出しているのです。
西村京太郎さんや内田康夫さんの後を継ぐ、旅情ミステリーの書き手としても期待しています。
いつか訪れたい土地がまた一つできました。

警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 丹後半島舟屋殺人事件

鳴神響一
徳間書店 徳間文庫
2024年3月15日初版

カバーイラスト:爽々
カバーデザイン:アルビレオ

●目次
プロローグ
第一章 日本の原風景
第二章 入江のきらめく夢
第三章 伊根の謎
第四章 悲しみの捜査
エピローグ

本文308ページ

文庫書き下ろし

■今回取り上げた本





鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...