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高岡藩井上家に三方領地替えの危機、窮地を救うは領地のお宝

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『おれは一万石 国替の渦』|千野隆司|双葉文庫

おれは一万石 国替の渦千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石 国替の渦(くにがえのうず)』(双葉文庫)を紹介します。

先日、私用で佐原から成田まで成田線に乗車しました。
途中、滑河(なめがわ)駅を通りましたが、かつてその駅の近くに下総高岡藩の陣屋がありました(下総歴史民俗資料館には、高岡陣屋模型があるそうです)。車窓から豊かな農村風景を見て、「おれは一万石」の世界を想起しました。

一俵でも禄高が減れば旗本に格下げになる。ぎりぎりの一万石の大名、下総高岡藩井上家。
五年前に美濃今尾藩竹腰家から婿に入った今の藩主正紀は、藩財政の回復に向けてあの手この手と力を尽くしてきました。
本シリーズは、一万石の小所帯とはいえ、藩の舵取りを担わされた正紀の活躍を描く、勧善懲悪の痛快さが楽しめる人気シリーズです。

造酒額厳守の触が出されているなか、天領の村から手に入れた二升の酒によって窮地に立たされてしまった高岡藩井上家。背後に大身旗本らの企てがあったと証し立てしたころで減封こそ免れたものの、触を破った事実は消えず領地替えの話が持ち上がる。先代正国の病状も思わしくないなか、最大の危機を迎えた井上家の運命は――!? 大人気シリーズ第26弾!

(本書カバー裏の紹介文より)

寛政三年(1791)七月には、松平定信は『造酒額厳守』の触れを出しました。米不足が深刻になり、酒の生産を減らすことで米の流通を確保しようという狙いです。

市井に出て、酒の値がぐんぐん上がっていることを掴んだ正紀は、藩の財政改善の足しにするため、家臣たちに領地内の農民たちが自家用に醸造した酒(どぶろく)を買い集めるように命じました。

ところが、造酒額厳守の触れが出ている中、高岡藩も年貢を得ているとはいえ、公儀が年貢の大半を得ている天領の村から、二升の酒を買い求めたことはしくじりでした。

定信派の旗本が仕組んだからくりを暴いたことで、減封こそ避けられましたが不始末の汚名は依然残ることから、国替えの噂が井上家を襲います。

同じ一万石でも、江戸から遠く離れた九州や四国の遠方へ国替えされたら、引越しや参勤交代の費用はたいへんなものになります。また、水運の要所で一万石を超える実高がある、愛着のある地を離れることに不安ばかり。さらに、転封ともなれば、藩が発行した藩札千四百両分の交換も必要ですが、藩庫を空にしてもその二割の金さえも難しく、領民たちを泣かすことは必定。

正紀は、下谷広小路の高岡藩上屋敷の自らの御座所に、江戸家老の佐名木源三郎と勘定頭の井尻又十郎、廻漕河岸場奉行の青山太平とその配下の杉尾善兵衛、それに近習の佐名木源之助と同役の植村仁助の六名が顔をそろえました。

「当家は、国替えの危機にありまする」
「それは間違いない」
 井尻の言葉に、正紀は答えた。松平定信が高岡藩井上家の国替えを企んでいることは、尾張徳川家の付家老をしている兄の竹腰睦群から知らされた。

(『おれは一万石 国替の渦』P.18より)

そんな中で正紀が心配しているのは、義理の父で実の叔父でもある、先代藩主正国の容態。快復する様子はなく、食欲もなく、日々病み衰えていくのを見守るばかりです。

第26巻にして、最大の危機に見舞われた高岡藩井上家の運命やいかに。正国の病状も気になり、読者をやきもきさせる展開が待っています。

今回、高岡藩とともに、三方領地替えの候補に挙がったのが、七日市藩前田家一万石です。
七日市藩は、前田利家の五男利孝が藩祖で、上州で唯一の外様大名。
そういえば、坂岡真さんの「照れ降れ長屋風聞帖」シリーズの主人公、浅間三左衛門も七日市藩出身でした。

おれは一万石 国替の渦

千野隆司
双葉社 双葉文庫
2023年8月9日第1刷発行

カバーデザイン:重原隆
カバーイラストレーション:松山ゆう

●目次
前章 河岸の斬撃
第一章 三方領地替
第二章 定信の非情
第三章 正国の最期
第四章 藩札と領民
第五章 駕籠訴の朝

本文274ページ

文庫書き下ろし

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『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)(第1作)
『おれは一万石 不酔の酒』(千野隆司・双葉文庫)(第25作)
『おれは一万石 国替の渦』(千野隆司・双葉文庫)(第26作)
『新装版 照れ降れ長屋風聞帖〈一〉-大江戸人情小太刀』(坂岡真・双葉文庫)

千野隆司|時代小説ガイド
千野隆司|ちのたかし|時代小説・作家 1951年、東京生まれ。國學院大學文学部文学科卒、出版社勤務を経て作家デビュー。 1990年、「夜の道行」で第12回小説推理新人賞受賞。 2018年、「おれは一万石」シリーズと「長谷川平蔵人足寄場」シリ...