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42歳で死ぬ今川義元。桶狭間の雨に散った名君の生涯とは

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『桶狭間で死ぬ義元』|白蔵盈太|文芸社文庫

桶狭間で死ぬ義元白蔵盈太(しろくらえいた)さんの文庫書き下ろし歴史小説、『桶狭間で死ぬ義元』(文芸社文庫)を紹介します。

著者は、2020年、松の廊下事件の顛末を描いた「松の廊下でつかまえて」で第3回歴史文芸賞最優秀賞受賞し、2021年に『あの日、松の廊下で』に改題して時代小説デビューしました。
その後も、葛飾北斎の半生を描いた『画狂老人卍 葛飾北斎の数奇なる日乗』や、源範頼を主人公にした『義経じゃないほうの源平合戦』など、独自の視点から歴史上の人物を取り上げた歴史時代小説を発表している気鋭の時代小説家です。

強い今川家を目指し、検地や寄親・寄子制を導入するなど制度改革を行い、古臭い家風を変えようと当主として肝胆を砕く義元。東に北条、北に武田、西に織田という手強い相手に囲まれつつも、冷静沈着で独自の情報収集網を持つ地獄耳の師僧・太原雪斎の意見に耳を傾けながら、義元はいつしか「海道一の弓取り」と称されるまでになる。しかし、雪斎亡きあと正確な情報を得られず判断が鈍り始めると、いつしか織田への疑念が生まれていた。甲相駿三国同盟を成立させ、今川家を繫栄させた名将は、篠突く雨の桶狭間で運命の時を迎える。

(『桶狭間で死ぬ義元』カバー裏の紹介文より)

享禄四年(1531)、善徳寺の僧、太原雪斎は、自分が教育係をつとめる、今川家の御曹司で十三歳の方菊丸(栴岳承芳、後の義元)の資質の虜となり、どんな汚い手を使っても世に出してやると心に誓いました。

ところが、栴岳は、もともと持って生まれた欲が薄く、十三歳とは思えないほど自分を主張しない、何事もまずは他人に譲ることを考えて自分のことを後回しにしたがる、性格でした。

その頃の今川家は、当主は十九歳の長兄・氏輝でしたが、体がとても弱く、少しでも無理をすると、すぐ熱を出して寝込んでしまいました。そこで、母の寿桂尼が氏輝の代わりに政務をさばくことが今川家の日常となっていました。

今川家は駿河と遠江を治め、南は海で、東側の伊豆・相模は北条がいて、北の甲斐には武田がいて、北条と手を結びながら、武田とは敵対していました。

雪斎は、今川家の西側に、松平清康の小国三河国と織田信秀の尾張がありました。肥沃な平野が広がり、川と海があって船で物資を運ぶにも都合がよく、自然と人が往来し、市が立って多くの金が集まってくる豊かな国の尾張に覇を唱える織田家こそが真の脅威であると言います。

 この璞(あらたま)のような御曹司を、私は修羅の道に引き入れようとしている。
 私は鬼だ。徳の高い僧のような顔をして、誰よりも豪が深い。この方が今川家を繁栄に導いていく姿を見てみたい、そしてその覇業を傍らでお支えしたいなどという、汚らしい我欲に囚われている。私は醜い鬼だ――
 雪斎は人知れず、自分の中に確実に棲んでいるいる魔物を呪った。
 
(『桶狭間で死ぬ義元』 P.31より)

その五年後、今川義元十八歳のとき、長兄の氏輝と、次兄の彦五郎が全く一緒の症状で、亡くなりました。
妾腹の兄、三男玄広恵探、四男象耳泉奘を差し置いて、寿桂尼の子で五男栴岳が今川家を継ぐことに。足利将軍家から偏諱を賜り、義元と名乗ることになりました。

 太原雪斎は地獄耳である。そして、おそろしく顔が広い。
 
(『桶狭間で死ぬ義元』 P.66より)

物語では、師僧で最高顧問の太原雪斎と二人三脚で、老成で、聡明さをもつ義元による新しい政治と戦いぶりが時系列で綴られていきます。
とりわけ、北条氏康、武田晴信(信玄)との関係における、今川義元が生き生きと描かれていて、本書の魅力の一つとなっています。

歴史小説を読んでいて時に辛くなることの一つに、登場人物が歴史上よく知られた人物の場合、その人物に将来起こるであろうことを歴史的事実として読者である自分が知っていることにあります。

とくにその結末が合戦での敗戦や非業の死などの場合、破滅へ向かっていくようで、ページを繰るのが苦しくなる瞬間があります。
とはいえ、歴史小説の多くは、読み応えのある人間ドラマや予期せぬ展開など、史実をなぞるだけでない、フィクション要素も描かれていて、それが読みどころになっています。
本書では、「桶狭間で討たれる今川義元」という誰もが知っている事実を逆手に取って、「死まであと○○年」という形で綴られていきます。
著者のTwitterによると、「100日後に死ぬワニ」を小説でやれないか、というコンセプトのようです。やられました。

太原雪斎とバディを組んだ今川黄金時代が堪能できる本書は、「どうする家康」で義元ファンになった方におすすめです。

桶狭間で死ぬ義元

白蔵盈太
文芸社・文芸社文庫
2023年4月15日初版第一刷発行

カバーイラスト:龍神貴之
カバーデザイン:谷井淳一

●目次
おことわり
登場人物
一年目 享禄四年(一五三一年) 今川義元 一三歳
六年目 天文五年(一五三六年) 今川義元 一八歳
七年目 天文六年(一五三七年) 今川義元 一九歳
十一年目 天文十年(一五四一年) 今川義元 二三歳
十二年目 天文十一年(一五四二年) 今川義元 二四歳
十五年目 天文十四年(一五四五年) 今川義元 二七歳
十八年目 天文十七年(一五四八年) 今川義元 三〇歳
二二年目 天文二一年(一五五二年) 今川義元 三四歳
二四年目 天文二三年(一五五四年) 今川義元 三六歳
二八年目 弘治四年(一五五八年) 今川義元 四〇歳
三〇年目 永禄三年(一五六〇年) 今川義元 四二歳
用語解説
あとがき

本文277ページ

文庫書き下ろし。

■Amazon.co.jp
『あの日、松の廊下で』(白蔵盈太・文芸社文庫)
『画狂老人卍 葛飾北斎の数奇なる日乗』(白蔵盈太・文芸社文庫)
『義経じゃないほうの源平合戦』(白蔵盈太・文芸社文庫)
『桶狭間で死ぬ義元』(白蔵盈太・文芸社文庫)

白蔵盈太|時代小説ガイド
白蔵盈太|しろくらえいた|時代小説・作家 1978年、埼玉県生まれ。 2020年、「松の廊下でつかまえて」(文庫刊行時に『あの日、松の廊下で』に改題)で、第3回歴史文芸賞最優秀賞受賞。 時代小説SHOW 投稿記事 著者のホームページ・SNS...