『江戸留守居役 浦会 火盗対浦会』|伍代圭佑|ハヤカワ時代ミステリ文庫
伍代圭佑(ごだいけいすけ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『江戸留守居役 浦会 火盗対浦会』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を紹介します。
若くして駿河国田中の江戸留守居役に就き、幕府を裏から支え守る闇組織「浦会(うらかい)」とかかわりをもつ、高瀬桜之助を主人公にした、痛快時代小説シリーズの第2弾です。
徳川の世を裏から支える浦会――駿河国田中の江戸留守居役・高瀬桜之助は、冷酷で犠牲も厭わぬ浦会とは袂を分かっていた。国元から江戸にやってきた六歳の息子とともに主君の若君の御守役に励むが、平穏な日々は続かなかった。江戸では似せ絵に描かれた者は必ず命を失うという怪事が続き、泣く子も黙る火盗・長谷川平蔵が解決に乗り出した。桜之助は浦会を怪しむ平蔵から内通者になるようせまられる。桜之助の決断は……。
(本書カバー帯の紹介文より)
寛政元年(1789)冬。
高瀬桜之助は久方ぶりに国元、駿河国田中に帰参し、妻の奈菜、六つになる一子、竹治郎、奈菜の祖父・甚兵衛と、家族水入らずの時を過ごしていました。
江戸家老の薮谷帯刀から、桜之助に思いもよらぬ加役が課せられました。
駿河藩田中四万石、本多伯耆守の若君の御守役で、息子竹治郎にも同い年の若君のお相手として出仕せよと。
桜之助は、竹治郎をともなって江戸の本多家上屋敷に戻りました。
「拙者、このたび命により、若君御守役を貴殿とともにつとむる次第となった……村松獅子右衛門でござる。以後、別懇に」
「貴殿が……あの……」
桜之助の目の前に、薮谷帯刀さまの、高瀬の爺さまの、奈菜の笑う姿が行き来した。
「獅子右衛門殿……」
獅子右衛門は真面目くさった顔で、「なにとぞ、よしなに」と頭をさげた。(『江戸留守居役 浦会 火盗対浦会』 P.57より)
若君御守役の同役をつとめる獅子右衛門は、国元の田中では知られた名家の当主ながら、謹厳実直な帯刀や甚兵衛や奈菜が名前を聞いただけで笑いを催すほどユニークな人物としても知られていました。
その獅子右衛門は、既に桜之助の屋敷に居座っていて、客間の縁側で日も高いのに酒を飲んでいました。
月代も何日も剃らず、顔も垢じみて髭などもあたらず、見るだけでむさくるしい男でした。
その頃、江戸では、似せ絵に描かれた者が十日とおかずに死ぬとい怪事が頻発していました。似せ絵といっても、顔をそっくりそのまま写すわけではなく、顔の特徴をことさらに目立たせて描き、滑稽とも、不気味ともいえるものでした。
田沼意次に代わり、老中首座として執政をとる白河殿こと、松平越中守定信は、江戸の町の風紀の粛正が進められ、農政に力を入れ、荒廃した農村を再興させることに心を砕いていました。
飢饉により江戸に流れ込んできた無宿者によって、江戸の町には物乞いだけではなく悪事に手を染める者たちが増えていました。
白河殿は、火付盗賊改の長谷川平蔵を使って、町にはびこる悪人たちを追い詰めさせました。
神君家康公の発案で、天下の行く末を裏から支配する者たちの集まり、浦会は、「えもいわれぬ世の不安や不満をいちはやくかぎ取り、天下の安寧を図る」様々な仕掛けをほどこすこともあります。
桜之助は訳あって、六年前に浦会と袂を分かちました。しかしながら、浦会の秘密を探る長谷川平蔵から、内通者になるように迫られます……。
長谷川平蔵率いる火盗と対峙しながら、江戸を震撼させる怪事の真相を追う桜之助。一方で、御守役をつとめる本多家の若君にも危難が迫ります。
さまざまな出来事が複雑に錯綜するストーリーから目が離せません。
本書では、タイトルからもわかるように長谷川平蔵が重要な役回りを演じています。
そのあたりも、読みどころの一つです。
長谷川平蔵は実在の人物ながら、歴史の教科書ではなく、池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』シリーズでその生涯から日頃の言動までよく知られる人物。
読者が抱く平蔵のイメージを生かしつつも、ストーリーをかき回す存在として自在に動かしています。
江戸留守居役 浦会 火盗対浦会
伍代圭佑
早川書房 ハヤカワ時代ミステリ文庫
2021年12月15日発行
カバーデザイン:k2
カバーイラスト:丹地陽子
●目次
第一章 出立
第二章 粋侍
第三章 虚儀
第四章 贄狩
第五章 無明
本文382ページ
文庫書き下ろし
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『江戸留守居役 浦会』(伍代圭佑・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1作)
『江戸留守居役 浦会 火盗対浦会』(伍代圭佑・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2作)