幕末の江戸情緒とトリックとプロットが楽しめる捕物小説

『宝引の辰 捕者帳 第四巻 織姫かえる』

宝引の辰 捕者帳 第四巻 織姫かえる泡坂妻夫(あわさかつまお)さんの捕物小説、『宝引の辰 捕者帳(ほうびきのたつとりものちょう) 第四巻 織姫かえる』オンデマンド本を献本いただきました。

神田千両町に住む、宝引の辰親分が事件の謎を解く、捕物小説をオンデマンド本として、復刊したシリーズの第4弾です。

毎回楽しみな、かみきり仁左衛門さんによる、表紙のきりえは、表題作にあわせて七夕仕様となっています。
家の入口に貼られた「賦」の文字も気になります。

日本推理作家協会賞、直木賞受賞に輝く著者の代表的な捕者小説。
本書には2002~2008年に発表された雪見船、駒込の馬、毒にも薬、熊谷の馬、十二月十四日、消えた百両、願かけて、織姫かえる、焼野の灰兵衛、千両の一失、菜の花や、蟹と河童、五ん兵衛船、山王の猿と、宝引の辰最終作のだらだら祭の短編15編を作品発表順に収録。
(Amazonの内容紹介より)

辰の手下の松吉は、本業の貸本屋のかたわら、季節の際物を売り歩き、七夕が近づくと、笹竹を担いで売っていました。

毎年買ってくれる、皆川町の手習の師匠・多聞白丈の家を訪れると、松吉の貸本の顧客である女中のたかが出てきました。

「この前借りた本、まだ読み終えていないんだけど」
「はて、どんな本を貸しましたかな」」
「『手品早合点』と、それから――」
「そうそう、為永春水先生の『春色湊の花』と一緒でした。為永先生の人情本はともかく手品の本をご婦人が読むというのは珍しいと思って覚えています。
「あの本には、手品だけでなく、いろいろ暮らしの役に立つ術が書いてあるでしょう」
「……はて、そうでしたかな」

(『宝引の辰 捕者帳 第四巻 織姫かえる』「織姫かえる」P.124より)

松吉は、たかから、白丈先生の奥さんが昨夕から帰って来ずに行方知らずになったと聞きました。貞女と言われている奥さんがいなくなった日の夕方、奥さんと役者みたいな良い男が手を取り合って、両国橋を渡っていたのを見たという人もいました……。

消えた奥さんを織姫になぞらえ、トリックが冴えている、泡坂さんらしい捕者話となっています。

「さござい、さござい。お富士さんの祭りに宝引すれば、冬になって風邪を引くことがない」
 言いながら、左手に握っている二十本ほどの麻糸を振り立てます。その一本一本の糸の先には鈴や独楽、一文人形、福飴か瓦煎餅といった玩具や駄菓子などが結ばれています。かと思うと、中には銀簪や袂時計、きらりと光る一分銀と二分金も一枚ずつ混ざっている。
 
(『宝引の辰 捕者帳 第四巻 織姫かえる』「駒込の馬」P.28より)

本書で描かれているのは、幕末の江戸。

岡っ引きの辰が主人公ですが、読み切りの各話は、辰の知り合いや、事件の関係者の一人の視点から一人称の語りで描かれていきます。

話の冒頭で、駒込神宮宮・富士浅間社の祭礼で辻宝引の男が登場します。
男は、神田千両町に住む「宝引の辰」と呼ばれる岡っ引きから、商売道具一式を仕入れていました。

その宝引には、巧妙な仕掛けが施されていて、客が高価なものは当てられないようになっていました。

さて、その宝引の男は、岩附道中を走っていた馬が、俵をいくつも積み上げた荷車とすれ違う際に、馬上から人がいきなり消えてしまうという奇妙な事件に遭遇しました……。

語り手の人物と事件との関わりが気になりながらも、不可思議な事件の謎に引き込まれていきます。

タイトルが「捕物帳」ではなく、「捕者帳」となっている点も注目です。

江戸研究の大家・三田村鳶魚さんは、『捕物の話』で、「捕物帳」について興味深い解説をされていました。

 ついでだからここでいっておきますが、この捕物帳というのは、奉行所から捕物のために出動した記録であります。近頃は何の某捕物帳というわけで、同心や目明しどもまで、何か記録していることがあったように思われているらしい。まあ今日の巡査が持っている手帳のような具合に、考えている人もあるようですが、そんなものがあったわけではない。昔の捕物帳というのは、そういうものではないのです。
 
(『捕物の話 鳶魚江戸文庫1』P.63より)

本書はオンデマンド本として刊行されています。

オンデマンド本とは、注文に応じて印刷・発行する「プリント・オン・デマンド」方式の本のことです。一般の書店には並んでいませんが、Amazonや楽天ブックスなら通常の書籍と同様に送料無料で数日間で手許に配送されます。

神田神保町の三省堂書店本店には、オンデマンド印刷製本機が店内に設置されているので、注文から30分ほどで出来立てほやほやの本を入手できます。

宝引の辰 捕者帳 第四巻 織姫かえる

泡坂妻夫
捕物出版
2020年5月20日 オンデマンド版初版発行

表紙きりえ:かみきり仁左衛門

目次
雪見船
駒込の馬
毒にも薬
熊谷の馬
十二月十四日
消えた百両
願かけて
織姫かえる
焼野の灰兵衛
千両の一矢
菜の花や
蟹と河童
五ん兵衛船
山王の猿
だらだら祭

本文255ページ

本書は、文藝春秋刊の『鳥居の赤兵衛』と『織姫かえる』を底本に、そこから一部の作品を収録しています。

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『捕物の話―鳶魚江戸文庫〈1〉』(三田村鳶魚・中公文庫)

泡坂妻夫|時代小説ガイド
泡坂妻夫|あわさかつまお|作家 1933年5月9日 - 2009年2月3日。 東京都千代田区出身。東京都立九段高等学校卒。 1978年、『乱れからくり』で第31回日本推理作家協会賞を受賞。 1982年、『喜劇悲奇劇』で第9回角川小...