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自分を苦しめた相手を救えるか?お葉が挑む、医療の険しい道

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『お葉の医心帖 つぐないの桔梗』|有馬美季子|角川文庫

お葉の医心帖 つぐないの桔梗2023年11月に刊行された、有馬美季子さんの『お葉の医心帖』は、人生に絶望して命を絶とうとした娘お葉が、医者道庵に助けられ、やがて道庵の助手をすることで、命の大切に気がつき、再生していく時代小説です。

本書『お葉の医心帖 つぐないの桔梗』(角川文庫)は、その医療時代小説の第2弾です。

奉公先のいじめで絶望し、身投げしたところを救われたお葉が、町医者・道庵の診療所を手伝い始めて四カ月。命の尊さを知り、患者を救うことに遣り甲斐を見出していた彼女に、試練が訪れた。かつていじめられた奉公先のお内儀が患者としてやってきたのだ。自分を苦しめた相手を救うことができるか? 道庵の元弟子で、長崎で蘭方医学を学んだという訳ありの源信も加わり、お葉は医者として成長してゆく。感動必至の医療小説!

(『お葉の医心帖 つぐないの桔梗』カバー裏の紹介文より)

文政七年(1824)睦月。年が明けて、お葉は齢十七になり、神田須田町二丁目の挙田道庵(あぐたどうあん)診療所を手伝っています。

雪が降り続けた日、武家の二人の女がお忍びで診てほしいと、診療所にやってきました。
旗本の家柄の長女と腰元で、お葉と同じ十七の静乃は、訳があって二日前に中条流の医者(堕胎医)にかかって子を堕しました。
ところが、その時に静乃の体調が悪く、医者も搔爬用の道具を使って胎児を無理に搔き出したらしく、酷く傷ついてしまい、出血がなかなか止まらないと。

「ずいぶんと思い切ったことをなさったものですな。ご両親にご相談されなかったのですか」
 娘は唇を噛み締め、うつむいてしまう。代わりに腰元が答えた。
「お嬢様は世間知らずゆえ、ご自分のご判断で、危ない真似をなさってしまったのです。……殿様と奥様にも、易々と話せることではございませんから」
 
(『お葉の医心帖 つぐないの桔梗』 P.19より)

娘を診療所に泊めて、患部へ刀傷や火傷などにも使われる塗り薬を塗って手当をしますが、なかなか出血が止まりません。

そんな折、道庵のかつての弟子で、大槻玄沢の私塾・芝蘭堂で蘭方医学を学び、長崎に留学までした源信が、道庵の診療所にやってきました。
源信は、ここで預かっている娘の傷が治らずに手を焼いているのではないかと言い、ある厚かましい申し出をしました……。

名誉や金に対する欲が皆無で、ひたすら患者を助けることに情熱を傾ける道庵に対して、名誉や金に対する欲が強く、ゆくゆくは藩医、それ以上を目指していそうな源信がぶつかることは仕方ないこと。
お葉も、金の話ばかりして、元師匠を敬うところがない、自信家の源信に反発を覚えました。(「第一章 恋の痛み」より)

本書には4つの連作短編が収録されています。

旗本の娘の中絶と恋の行方を描いた「第一章 恋の痛み」のほか、ある人気噺家(落語家)の闘病話を綴った「第二章 俺の弔い」や、痴呆の始まった大店の隠居とその家族の物語「第三章 日溜まりの庭」、そして、お葉の医療従事者としての覚悟が問われる「第四章 命の重さ」。

卯月(四月)下旬、小雨が降る午後、診療所に駕籠で乗りつけた者がいました。
下女のお砂に支えられるようにして入ってきたのは、かつてお葉を虐め抜いた、呉服問屋の内儀の多加江でした。お葉はすぐに気づきましたが、二人はまさかお葉がこのような場所にいるとは思いもよらず、気づかない様子。

三月ほどまえから痛みが酷くなり、治療を受けたが一向に治らず、いろいろな先生に診てもらい腰痛に効く様々な薬を試したが駄目だったと。

「そんなにかしこまらなくてもいいぜ。どれ、ちょっと見せてもらおうか。おい、お葉。お前も手伝って、お内儀をうつ伏せに寝かせてやってくれ」
 すると多加江は目を剥き、お葉を凝視した。名前を聞いて、ようやく気づいたようだ。お砂も然りで、目を皿にしてお葉を見る。
 お葉と多加江の眼差しが合う。多加江は掠れた声で道庵に訊ねた。
「この人は?」
「俺の弟子だが」
 多加江の顔が強張る。お葉は、多加江が怒って出ていくかと思ったが、よほど腰が痛むのか、座ったままだ。

(『お葉の医心帖 つぐないの桔梗』 P.250より)

本書で最大の読みどころは、この「命の重さ」の章です。

お葉が川に身を投げたところを道庵に助けられ、診療所に置いてもらったのが昨年長月(九月)。道庵の仕事を手伝うようになったのは神無月(十月)からで、5月半が経ったところ。

道庵が本道(内科)だけでなく外科の患者も診るために、本書にはいろいろな薬が出てきます。
どれも効きそうで、自分も具合が悪い時に漢方を処方してもらうのもよいかもと思ってしまうほど。

お葉は毎日、その日の終わりに自分の部屋で一人になると、《医心帖》と名づけた帳面を開きます。この帳面に、日々覚えたことや学んだことを書き込んでいます。
お葉が短期間に薬の名前と作り方を覚え、道庵の助手が務まるのは、そのおかげかもしれません。

恩讐の相手の出現で激しく動揺するお葉。
医療の道を歩み始めたお葉が迎えた試練。どのようにして乗り越えていくのでしょうか

多加江に怖れを感じ、葛藤に悩みながらも、患者の気持ちになって患者に寄り添うお葉の姿に強い感動を覚えました。
道庵が薬を処方し、その結果を見ながら、本当の病名(病因)を探っていく過程が興味深く、医療小説としてもリアリティーがあって、知的好奇心を満たされる時代小説です。

お葉の医心帖 つぐないの桔梗

有馬美季子
KADOKAWA 角川文庫
2024年5月25日初版発行

カバーイラスト:中島梨絵
カバーデザイン:アルビレオ

●目次
第一章 恋の痛み
第二章 俺の弔い
第三章 日溜まりの庭
第四章 命の重さ
終章

本文330ページ

文庫書き下ろし

■今回取り上げた本

有馬美季子|時代小説ガイド
有馬美季子|ありまみきこ|時代小説・作家 2016年、『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』で時代小説デビュー。 2021年、「はないちもんめ」シリーズ、「はたご雪月花」シリーズで、第10回日本歴史時代作家協会賞文庫シリーズ賞を受賞。 時代小説...