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壬申の乱を舞台に、『古事記』誕生を描く長篇古代小説

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蘇我の娘の古事記周防柳(すおうやなぎ)さんの古代を描く長篇時代小説、『蘇我の娘の古事記(ふることぶみ)』(ハルキ文庫)を入手しました。

著者は、『八月の青い蝶』で第26回小説すばる新人賞を受賞して、2014年にデビュー。古今和歌集の成立を背景に紀貫之と六歌仙たちとの関わりを描いた『逢坂の六人』で注目される新進気鋭の小説家です。

栄華絶頂の蘇我氏が討たれた乙巳の変から数年。緑あふれる野中の里で国史編纂に力を注ぐ父のもと、ヤマドリとコダマの兄妹はすくすくと育っていた。盲目の妹コダマは一度聞いたことはけっして忘れない聡耳の持ち主で、物語を愛する少女へと成長する。だが日本の黎明に揺れる政争が、彼女を数奇な運命へと導いて――。時を越えて愛される日本神話の数々と、激動の世を生きたひとりの女性を鮮やかに描く長篇小説。続々重版した話題作が、待望の文庫化。
(文庫カバー裏の紹介文より)

古代史が苦手で、『古事記』も現代語訳でさえ読んだことがない体たらく。しかしながら、「本の雑誌」2017年上半期エンターテインメント・ベスト10の第1位という帯の文字に惹かれて手に取りました。

物語の序で描かれる、乙巳(いっし)の変とは、645年に中大兄皇子、中臣鎌足らが蘇我入鹿を宮中で暗殺して蘇我氏を滅ぼした政変のことをいうそうです。その後の改革政治体制を指す、大化の改新と混同していました。

 小札を綴った脛当の脚が威勢よく蹴り出され、ぱあん、と、堂塔の甍より高く鞠が上がる。中大兄皇子だ。おみごとっ! やんやの喝采が飛ぶ。青空の色に染まって戻ってきた鞠を、たったたと駆け寄って返すのは、中臣鎌足だ。脛当がかあん、と鳴る。おみごとっ! 返った鞠を中大兄がふたたび蹴りあげる。ぱあん、おみごとっ!
 うまい。うまいな。蹴って、返して、蹴って、返して、鞠は落ちない。いつまでも落ちない。さすが鉄壁の二人組だ。
(『蘇我の娘の古事記』P.15より)

鞠と思っていたものは、蘇我入鹿の首だった。
リズム感のある軽快な筆致で描かれる、乙巳の悪夢から物語は始まります。

主人公は、蘇我家で国史編纂を行っていた、渡来人の船恵尺(ねのえさか)と、その子供たちのコダマとヤマドリ。
各章の終わりに、やがて『古事記』へと結実する、天地開闢、日本神話が語られていきます。興味深い話の連続に引き込まれていきます。

物語のヤマ場で背景となっている、壬申の乱は、672年に天智天皇の太子・大友皇子と皇弟・大海人皇子が皇位を争った、古代日本最大の内乱のことです。

目次
序 乙巳の変
第一章 墳墓の里
第二章 お話を聞かせて
第三章 女帝の首飾り
第四章 愛しあう妹背
第五章 兄と弟
第六章 不穏な使節
第七章 壬申の大乱
第八章 語り部の尼
附 弘仁の序文
解説 三浦佑之

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『蘇我の娘の古事記』(周防柳・ハルキ文庫)
『逢坂の六人』(周防柳・集英社文庫)

周防柳|時代小説ガイド
周防柳|すおうやなぎ|作家 1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業して、編集者・ライターに。 2013年、「八月の青い蝶」(「翅と虫ピン」改題)で第26回小説すばる新人賞、2015年、同作で第5回広島本大賞を受賞 2022年、『...