女流書家の周りで起こる事件の数々。江戸「書道」小説、登場

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墨の香梶よう子さんの時代小説、『墨の香(すみのか)』(幻冬舎時代小説文庫)を入手しました。

本書のヒロインの岡島雪江は、千三百石の旗本の二十六になる娘。ひと月前に婚家を出て実家に戻り、書の道を学ぼうという若い娘たちに筆法指南を始めます。

岡島家の先祖は能筆家で神君家康公にも重用されたといい、代々書に長けた家として知られていました。雪江も、当世の三筆の一人、巻菱湖(まきりょうこ)に師事しました。

突然、理由もなく嫁ぎ先から離縁された女流書家の岡島雪江は、心機一転、筆法指南所(書道教室)を始める。しかし大酒のみの師匠・巻菱湖や、かまびすしい弟子の武家娘たち、奥右筆の弟・新之丞に振り回される日々。そんなある日、元夫の章一郎が「ある事件」に巻き込まれたことを知り――。江戸時代に生きる「書家」とその師弟愛を描いた、感動作。
(本書カバー裏の紹介文より)

作品に描かれているのは、老中水野忠邦が綱紀粛正や奢侈禁止などの改革をおこなっている時代です。雪江の師である、巻菱湖は越後国巻(現在の新潟市西蒲区)に生まれた実在の書家で、弟子は1万人を超えたと伝えられ、市河米庵(いちかわべいあん)、貫名菘翁(ぬきなすうおう)とともに「幕末の三筆」と並び称されています。

屋敷内の部屋を使った雪江の筆法指南所には、十五人もの弟子たちが集まります。はっきりした物言いで、雪江の離縁について詮索するなど、かまびすしい弟子たちに、初めての指南で「仁」という字を教えます。
そして、雪江は、事件を起こして人を深く傷つけた、弟子の一人をやさしく諭します。

「仁の字は、人と二本の線からできています。思いやりの心、慈しむ心。そうした意味を持ちます」

(中略)

「それとね、仁の一字を分けてごらんなさい。人という字と二。二人となります」
「ふたり?」
(『墨の香』P.66より)

女流書家の凛とした筆が、弟子たちの心をほぐしていき、雪江自身も成長していきます。
師弟が巻き込まれるさまざまな事件を通して、育まれる師弟の絆を中心に、江戸の書道の世界を描いた時代小説に魅せられます。

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『墨の香』(梶よう子・幻冬舎時代小説文庫)