ハラハラドキドキ、やがてジーンの一力ワールド炸裂

山本一力さんの『かんじき飛脚』を読んだ。物語の時代設定は、寛政元年師走。(『損料屋喜八郎始末控え』でも同じ時代が描かれていて、一力ファンには馴染み深い時代。)

かんじき飛脚 (新潮文庫)

かんじき飛脚 (新潮文庫)

損料屋喜八郎始末控え (文春文庫)

損料屋喜八郎始末控え (文春文庫)

賄賂まみれの紊乱政権とのうわさがあった田沼政権に代わり、八代将軍吉宗の孫という血筋のよさからその政治手腕に、庶民から大きな期待を寄せられて登場した老中松平定信。倹約の大号令を発し、徹底した緊縮財政を目指したことから、庶民から文句が出始めた頃の九月十六日に、「棄捐令」を発布する。札差が武家に対して持つ貸し金百十八万両余りの金を棒引きにする、武家のための徳政令である。

緊縮財政下の公儀のお膝元で豪遊を続ける札差への仕置きと、高利の借金にあえぐ武家の救済という両面の効果があった棄捐令だったが、湯水のように金を遣っていた札差が財布の紐をぎゅっと締めたために市中に金が回らなくなり、その2カ月後には早くも不景気風が江戸の町を覆った。(何やらサブプライム・ショックの今の日本のようだ)

寛政元年の師走、老中松平定信は、外様の筆頭である大藩の加賀藩前田家の動きを気にしていた。十一代藩主前田治脩(はるなが)は、藩主に就いてから十九年目の四十五歳。自ら文武の先頭に立つ名君で、家臣の団結の強さも際立っていた。その前田家が抱える弱みは内室の病で、その事実を公儀に届け出ていなかった。御庭番の調べにより、その情報をつかんだ定信は、前田治脩に内室同伴で、正月二日の宴の招待を申し入れる…。

窮地に陥った加賀藩の命運を救うために、選ばれたのは御用達の飛脚屋浅田屋の16人の三度飛脚たち。彼らの任務は、内室の病の特効薬「密丸」を加賀から江戸まで運ぶこと。タイムリミットのある中で、劇走する男たちの前に、大雪、荒海、刺客など、次々と障害が立ちふさがる。

江戸・深川を舞台にした市井物を得意とする山本さんにしては珍しいスケールの大きな、ハラハラドキドキの政治抗争ドラマだが、飛脚という町人たちがそのカギを握るという設定にしたことにより、身近で親しみやすい物語になっている。また、登場する男たちの心意気に胸が熱くなり、彼らを助ける人たちの人情が心にしみる、まさに一力ワールド炸裂といった感じで、大いに楽しめる作品だ。