玄冶店って路地の名なんだ

宇江佐真理さんの『玄冶店の女(げんやだなのおんな)』を読んだ。

玄冶店の女 (幻冬舎文庫)

玄冶店の女 (幻冬舎文庫)

玄冶店というと、歌舞伎『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』、いわゆるお富さんで知られている。今まで実在の場所という意識はなかったが、日本橋の東、新和泉町と住吉町の間にある。裏店のような建物を指すのではなく路地についた名である。徳川家康の奥医者を務めた、岡本玄冶の名にちなむ。地図で調べると、今の人形町駅の近くにあたる。日本橋や芝居小屋のある二丁町に近いせいか、黒板塀を回した粋な妾宅が多いエリアである。

この玄冶店で小間物屋の「糸玉」を営むお玉が物語のヒロイン。元は吉原の半籬「ぶどう唐草屋」の花魁だったが、三年前に小間物問屋を営む藤兵衛に身請けされて玄冶店に住むようになった。お玉のほかにも、西両国広小路の水茶屋で茶酌女をしていた二十歳の妾お花や、芸妓屋「志の田」の娘で八歳ながらおちゃっぴいぶりを見せる小梅、小梅の三味線の師匠で気風のいい深川芸者のお喜代、亭主と息子と別れて病気の母親と暮らす女中のおまさなど、日陰に暮らす五人の女性が登場する。

連作形式で、それぞれの女心が巧みに描かれていて面白い。“日陰の女”たちの意地と張り、心情が伝わってくる。物語では、夏から秋、冬、桜の頃まで、玄冶店の四季を描き、江戸情緒にあふれる一編でもある。時代は文化文政のころ。