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霊岸島の下り酒問屋を舞台にした捕物小説

千野隆司さんの『新川河岸迷い酒』を読む。『大川端ふたり舟』に続く、「霊岸島捕物控」シリーズの第2弾である。主人公は、霊岸島富島町一丁目に家がある、岡っ引きの五郎蔵。前作では一人娘のお妙を中心に物語が進んだが、今回は五郎蔵の活躍にスポットが当たっている。

『新川河岸迷い酒』の冒頭で、

 本八丁堀町の東はずれは、亀島川によって行き止まりとなる。町の南側には八丁堀が流れ、川と堀が合流するとすぐに江戸の海に出た。

 漆黒の海だ。どこまでも暗い。

 八丁堀に架かる稲荷橋を渡ると鉄砲洲へ、亀島川の高橋を越えると霊岸島だった。霊岸島の北向こうには、広い大川の河口がある。冷たい海風が、夜の町を吹き抜けて行った。雲が空を覆っているのか、月明かりはどこにもなかった。

 闇に、海のにおいがある。

と、霊岸島の描写がされている。霊岸島のほぼ中央に、新川堀と呼ばれる掘割りが開削されていて、この両河岸には、船着き場を備え、灘や伏見から来る下り酒の問屋とその酒蔵が集まっている。

今回は、その下り酒(灘や伊丹などの上方の酒は上物とされ、下り酒と呼ばれた)の問屋を舞台にしている。五郎蔵は、新川河岸の下り酒問屋について、ある探索に取り掛かっていた。問屋仲間は、酒の仕入れ量について、厳密な取り決めをしていたが、これを必ず破る者が現れると踏んでいた。露見すれば制裁を受けるが、うまくやれば莫大な利益を得ることができる。その取り決め破りの問屋を探り出し、脅しをかけ多額の口止め料をせしめるのが五郎蔵の目的だった。

そんな折、夜、人気のない亀島川の河岸道で、家に帰ろうとした行商人が何者かに絞め殺されるという事件が起こった…。

五郎蔵と幼なじみで、下り酒問屋「丹波屋」の女あるじ、お喜和の二人の心の動きが丹念に描写されていて、謎解きともに物語に彩りを加えていて面白さを倍加させている。

物語では、霊岸島の初春の風物詩である「新酒番船(しんしゅばんせん)」も描かれていて興味深い。新酒番船は、大坂や西宮の廻船問屋が、灘や伊丹の新酒を積み込んだ船を仕立てて、江戸への一番乗りを競った一大イベント。仕立てられる船は、千石級の大型帆船で、早ければ三日か四日で江戸・新川河岸に到着する。

「新酒番船」を描いた時代小説では、二宮隆雄さんの『千石船風涛録』という傑作がある。

千石船風濤録

千石船風濤録