山本一力さんと土佐藩

『いっぽん桜』に収録されている「萩ゆれて」は、天明七年(1787)の土佐藩を舞台にした短篇。作者の山本一力さんは、高知県出身ということで、土佐藩は生まれ故郷に題材を取った作品といえる。登場人物たちが鰹のたたきを食べるシーンが何ともうまそうだ。

主人公の服部兵庫は、土佐藩勘定方祐筆の長子で二十二歳の若者。病床の母を抱え、五歳年下の妹、雪乃がいる。父は土佐藩の下士であったが、汚職がもとで切腹した。兵庫自身は、木刀による果し合いの末に負傷して、城下から三里離れた浜井和温泉で療養の身だった……。

ストーリーだけを綴っていくと、父を亡くし、病母を抱え、自らも負傷し、なんとも悲惨な境遇である。ところが、山本さんの手にかかると、逆境にめげずに明日に向けて元気に生きていく若者像ができ上がる。仕事がちょっとつらくなってきたとき、家の中がうまくいかないとき、読んでいて救われる気がする。

土佐藩というと『竜馬がゆく』の影響もあり、幕末ばかりが脚光を浴びるが、この作品で描かれた時代は田沼意次が活躍した時代でちょっと新鮮だ。いつかは作者による、土佐藩を舞台にした長編小説を読んでみたいと強く思った。

いっぽん桜 (新潮文庫)

いっぽん桜 (新潮文庫)

新装版 竜馬がゆく (1) (文春文庫)

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