『忍び同心捕り物控 橋場一之進登場』
『永楽銭の謎 盗っ人から盗む盗っ人3』
『閻魔の闇太郎 ご隠居は福の神14』
2025年7月下旬に刊行された、二見時代小説文庫の新刊3冊をご紹介いたします。
忍び同心捕り物控 橋場一之進登場
カバーイラスト:浅野隆広
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
黒崎竜一郎(くろさき・りゅういちろう)さんによる、忍者同心の活躍が楽しめる痛快エンタメ時代小説の新シリーズが始まりました。ベテランのような筆致ですが、同名義では初めての作品です。
あらすじ
十三歳の丁稚・伊助が惨殺されました。心の臓を一突きにした得物とは、いったい何なのでしょうか? 商家から武家屋敷へと魔の手を伸ばす盗賊を追い詰めるべく、橋場一之進の探索が始まります。昼は南町奉行所に所属する一介の同心。しかし、その正体は──表に出してはならぬ掟に縛られた素破の生き残り。探索の最中、一味に拐かされた南町奉行の娘・久美を、一之進は救うことができるのでしょうか?
(『忍び同心捕り物控 橋場一之進登場』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
見慣れない作家名に惹かれて読み始めたところ、あっという間に読み終えてしまいました。著者は、別ジャンルで活躍されている方かもしれませんが、エンタメ小説の勘所を押さえた物語で、読ませる力に長けた作家です。
本書の最大の特徴は、素破(すっぱ=忍者)を江戸の町に登場させていることです。
舞台は文化元年(1804)七月。主人公の橋場一之進は二十歳。亡き父の跡を継いで同心となってまだ半月ほどの新米で、先輩同心の田中恭二郎からはこき使われたり、難癖をつけられたりと苦労しています。
しかし一之進には別の顔があります。生まれ故郷の常陸国筑波山中の素破の里で、幼い頃から厳しい修業を積み、剣術・柔術・手裏剣・体術に加え、薬草や医術の知識まで叩き込まれた忍者なのです。
江戸を震撼させる二人組の盗賊が登場します。鮮やかな手口で土蔵を破りますが、目撃者は苦無のような凶器で心の臓を一突きにされ、命を落とします。その一人は「猫目の源左」と呼ばれる暗闇で目が利く男。
一之進は探索の中で、奉行の娘・久美が「猫目の源左」らに拐かされる事件に巻き込まれたり、神田明神で手裏剣打ちの見世物を行う浪人者親子と出会ったりと、見どころ満載で、一気に読まされました。
捕り物の中に忍者が登場する構図が新鮮で、次作にも大いに期待が高まります。
目次
序 猫目の源左
第一章 新入り同心の秘めた力
第二章 暗闇に蠢く黒い影たち
第三章 新たなる戦慄の強敵が
第四章 人に見える素破の闘い
第五章 二人の娘は恋の鞘当て
第六章 黒い首魁と最後の闘い
2025年8月25日 初版発行
本文274ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本

永楽銭の謎 盗っ人から盗む盗っ人3
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
藤水名子さんによる「盗っ人から盗む盗っ人」シリーズの第3弾です。盗っ人から盗んだものをさらに横取りするという、新手の盗っ人《唐狐(からぎつね)》の活躍を描いた、痛快時代エンタメです。
あらすじ
《高麗屋》は、表向きは若い娘に人気の錺簪を扱う小間物屋ですが、裏では盗っ人から盗む稼業を営んでいました。近ごろ、主・東次郎の知り合いの道具屋が相次いで襲われましたが、盗まれたのはいずれもがらくたばかり。不審に思い調べを進めると、三十年前に永楽銭を一枚だけ盗んだ盗っ人の存在が明らかになります。その過去と今回の事件に、果たして繋がりはあるのでしょうか──。
(『永楽銭の謎 盗っ人から盗む盗っ人3』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
著者は、1991年、『涼州賦』(集英社)で第4回小説すばる新人賞受賞し、「三国志」の赤壁の戦を描いた『赤壁の宴』など、中国時代小説を精力的に上梓されていた時期がありました。近年は、江戸を舞台にした文庫書き下ろしシリーズを多数手がけています。
将軍家剣術指南役の家に生まれ、老中松平定信の命で北町奉行を命じられた柳生久通を主人公にした「剣客奉行 柳生久通」シリーズや、斎藤道三の末裔と言われ、古稀にして大目付に抜擢された松波三郎兵衛正春の活躍を描く「古来稀なる大目付」シリーズなどで、健在ぶりを示しています。
本シリーズは、盗賊に両親と奉公人を惨殺され、生き残った廻船問屋の一人息子・東次郎と手代・忠蔵が、小間物屋を表稼業に、盗っ人から盗んだ物を横取りする、新手の盗っ人稼業を始めました。
物語では、毎回、狙われる盗っ人との関係が興味深く綴られていきます。
東次郎が盗賊の名鑑ともいうべき『偸盗人別帳』に全幅の信頼を置いて、情報収集に活用しているが面白く、家族同様の付き合いの忠蔵とのやり取りも楽しく、癖になるシリーズです。
目次
序
第一章 狙われた錺簪
第二章 道具屋の災難
第三章 永楽銭の謎
第四章 重なり合う過去
第五章 仇討ち本懐
2025年8月25日 初版発行
本文289ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本

閻魔の闇太郎 ご隠居は福の神14
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
井川香四郎(いかわ・こうしろう)さんによる、痛快人情シリーズ「ご隠居は福の神」の第14巻『閻魔の闇太郎』をご紹介いたします。貧乏旗本の家に居着いた謎の老人・吉右衛門が今回も活躍します。
あらすじ
両替商や札差、豪商が次々と押し込みに遭っていました。公儀が商家の借財救済のために拠出した資金が、ことごとく盗まれていたのです。町方による捕縛もむなしく、盗賊の頭領は毎回姿をくらませていました。
頭領をおびき出すため、町方は一計を案じますが、罠にはまることなく姿を見せません。一方、“福の神”吉右衛門と小普請旗本・高山和馬は、盗賊一味の隠れ家を探索し、ついに頭領の正体に迫ります──。(『閻魔の闇太郎 ご隠居は福の神14』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
「世のため人のために働け」という家訓のもと、自らの窮乏を顧みず、他人のために奔走する社会慈善家のような貧乏旗本・高山和馬。そして、そんな和馬の家にやって来て居着いた謎の老人・吉右衛門。二人のおせっかいが、深川の人々に温かい幸せをもたらす、情味あふれる文庫書き下ろしシリーズです。
今回は、両替商や札差など、公儀御用達の商人たちが相次いで狙われ、千両箱が次々と盗まれていきます。北町奉行所の遠山左衛門尉は、盗賊“閻魔の闇太郎”を捕らえるために策を巡らせます。
そんな中、札差「出雲屋」の主・銀兵衛が偶然、盗賊一味の隠し金を発見し……事態は思わぬ展開を迎えます。
本巻には表題作を含む全4話を収録しています。とくに第四話「折り鶴の願い」は、地震で家を失い、和馬の屋敷近くの長屋で暮らす十歳の少女・小春と、深川の材木問屋の娘・かん奈との友情を描いた感動的な一編です。
心がぎゅっと締めつけられるような読後感があり、福の神・吉右衛門の今後の動向が気になってなりません。
目次
第一章 閻魔の闇太郎
第二章 怨みの剣
第三章 捨てられて
第四章 折り鶴の願い
2025年8月25日 初版発行
本文305ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本
