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千年を超える宿命を背負う澪と高良。京に蔓延る邪霊を祓う

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『京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う』|白川紺子|PHP文芸文庫

京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う白川紺子(しらかわこうこ)さんの文庫書き下ろし現代幻想小説、『京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う』(PHP文芸文庫)を紹介します。

本書は、「おまえは二十歳まで生きられないよ」と呪いをかけられた少女麻績澪(おみ・みお)が、その運命を変えるために京都で暮らし、邪霊を祓うことを生業とする蠱師(まじないし)を目指す、現代呪術ファンタジーの第3弾です。

「俺は穢れだから、近くにいないほうがいい」と言い、距離をとろうする高良。そんな高良の言葉に、澪の胸は痛む。「あなたは穢れなんかじゃない」という思いを秘め、うごめく邪霊に立ち向かっていく澪は、相棒・雪丸の力を借り、悪霊を祓うことができるのか。心配する高良、そして兄の蓮はその時――。「二十歳まで生きられない」と呪いをかけられた少女の闘いを描く呪術幻想譚シリーズ第三弾。

(『京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う』カバー裏の内容紹介より)

澪は、学友の茉奈と波鳥(なとり)とともに、学校近くの大豊神社にやってきました。
茉奈は長野から京都に転校してきた澪にとって最初にできた友人で、波鳥は同じ蠱師の一族和邇家の娘で澪の護衛を自任していました。

「ほんとに鼠なんだね」
 澪は身をかがめて目の前の石像を眺めた。狛犬ならぬ、狛鼠が一対、並んでいる。鹿ヶ谷にある大豊神社の境内、その片隅に祀られた祠の前だ。つぶらな目をした鼠の石像はなんともかわいらしく、愛嬌がある、
「かわいいやろ」
 茉奈はどこか誇らしげに胸を反らして言う。

(『京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う』P.13より)

学校の近くにある神社に狛鼠がいると茉奈が言うので、放課後に皆で見に来ました。そのとき、澪を携帯電話に兄の蓮から着信があり、「八尋さんが車で事故って病院に運ばれた」と告げられました。

麻生田八尋は、三重出身の蠱師で民俗学者であり、澪と同じ『くれなゐ荘』に下宿し、澪の師匠でもあります。
病因に駆け付けると、頭に包帯を巻いてベッドに横たわっていましたが、額を二針ほど縫っただけの軽症でした。

几帳面で安全運転をする八尋がガードレールにぶつかるという自損事故。
知り合いの住職に急にお祓いを頼まれて、お寺まで行って話を聞いて引き受けることにした帰りでした。

依頼とは、高齢の婦人が持っていた、童子の姿をした御所人形のお祓いだと。
その人が亡くなり、親戚の人とがもらい受けたのですが、子供の声が聞こえるやら足音がするやらで気味悪くお寺に持ち込まれて、そこで供養するはずでした。
八尋は、そう悪意のあるものと違うと思いましたが、車の前に急に子供が飛び出してきたように見えて、あわてて避けようとしてガードレールにぶつかったと。

澪は八尋に代わり、曰くのある人形をお祓いすることができるのしょうか。(「この子の七つのまじないに」より)

 お茶をひと口飲んで、八尋は澪の顔を眺める。
「さっきの話な、澪ちゃんが最近出かけへんなあというのは、僕も思うとった」
「そこから聞いてたんですか」
「まあまあ。――誰麾下に千年蠱の話聞いたん?」
 うっ、と飲みかけたお茶をこぼしそうになる。

(『京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う』P.84より)

澪は、千年蠱(せんねんこ)を倒すことを役目として課せられた蠱師の一族、日下部家の出流(いずる)から、若葉が萌える新緑の季節、陽の気がいちばん強くなる時季、千年蠱が最も弱くなり、住まいとしている八瀬から出てこないという秘密を告げられていました。

凪高良(なぎ・たから)は、中国で呪詛によって生み出された『千年蠱』で、何度も生まれ変わりを繰り返しています。

若王子山墓地の墓掃除に来ていた茉奈は、そこにある立派な墓の近くで片方だけのカフスボタンを見つけました。それは鈍い銀色の表面に、細かな斜線が彫り込まれているもので、雨が降り出したことから持ち帰りました。
「霧雨に恋は呪う」は、茉奈が見つけたカフスボタンから紐解かれる哀しい恋の話です。

「雨宿り」では、梅雨の晴れ間に、狸谷山不動院へ出かけた澪は、その近くで、アジサイが植えられて民家の前で通り雨に遭いました。その門の軒下で雨宿りをしている高良と久々に逢いました。
二人は、そこで紫陽花を呪う老婆の邪霊と出会い……。

「潮の家」では、高良は澪に、山間にある幽霊屋敷のお祓いを手伝ってほしいと依頼されました。
本来なら高良だけで事足りますが、澪に経験を積ませる修行のつもりでした。

その屋敷は山間なのに、潮のにおいがして、雨漏りがしたわけでもないのに床が水浸しになったり、その水も海水のようだったりと。
しかも、水死体のような死体がごろごろ見えたりと……。

呪われた澪と高良の関係がどう進展していくのか、そして待ち受ける運命は?

今回も、澪はさまざまな悪霊・邪霊を職神(しきがみ)雪丸の力を借り、高良や兄の蓮、八尋らに助けられて、祓っていきます。

大豊神社の狛ねずみ京の観光(パワースポット)をめぐりながらの、澪のゴーストバスターぶりが堪能できます。
コロナ前に京都を訪れとき、哲学の道から少し入った大豊神社をお参りしたことを思い出して、狛ねずみのかわいらしさが蘇りました。
読み味がよくて、ロマンチックなファンタジーに、年甲斐もなく胸がキュンキュンしました。続きが気になります。

京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う

白川紺子
PHP研究所 PHP文芸文庫
2023年3月22日第1版第1刷発行

装丁:こやまたかこ
装画:げみ

●目次
この子の七つのまじないに
霧雨に恋は呪う
雨宿り
潮の家

本文264ページ

文庫書き下ろし

■Amazon.co.jp
『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』(白川紺子・PHP文芸文庫)
『京都くれなゐ荘奇譚(二)  春に呪えば恋は逝く』(白川紺子・PHP文芸文庫)
『京都くれなゐ荘奇譚(三) 霧雨に恋は呪う』(白川紺子・PHP文芸文庫)

白川紺子|小説ガイド
白川紺子|しらかわこうこ|小説家 1982年、三重県生まれ。 同志社大学文学部卒業。 2011年、154回Cobalt短編小説新人賞入選。 2012年、「嘘つきな五月女王(メイ・クイーン)」で、2012年度ロマン大賞を受賞し、2013年、同...