縫箔師の咲が、一針一針縁を紡ぐ、人情時代小説第2巻

『妻紅 神田職人えにし譚』

妻紅 神田職人えにし譚知野みさきさんの文庫書き下ろし時代小説、『妻紅(つまくれない) 神田職人えにし譚』(ハルキ文庫)を入手しました。

本書は、『飛燕の簪』に続く、女縫箔師・咲(さき)を主人公にした人情時代小説シリーズ「神田職人えにし譚」シリーズの第2作です。

第1作は、『しろとましろ 神田職人町縁はじめ』(2015年、招き猫文庫刊)を底本に改題して復刊した作品ですが、第2巻の本書はハルキ文庫で今回書き下ろした作品となります。

招き猫文庫から新刊が出なくなって久しいですが、このような形で続編が世に出ることは、ファンとしてうれしく思います。

縫箔師の咲は、小間物屋に納める財布を仕上げ、散歩の道すがら贔屓にしている蕎麦屋に寄った。見れば、店前で少しやつれた女が傷んだ守り袋を大事そうに手にしていたのが気にかかった。守り袋とは、親が子の無事を祈って子に持たせるもの。そして後日、咲がまた蕎麦屋を訪れると、思わぬ場に遭遇して――。一針一針祈りを込めて、一生懸命に縁を紡ぐ咲の想いが心に沁みる、傑作人情時代小説第二巻。
(本書カバー裏の紹介文より)

縫箔師とは、財布や煙草入れなど、身につける小物に縫(刺繍)と箔(金や銀の箔を摺り)合わせて模様を入れる職人。咲は、厳しい修業を経て独り立ちした、二十七歳になる女縫箔師です。

本書は、咲の仕事を通じてかかわる人々との心の触れ合いを描く人情時代小説です。
十八歳のときに、職人であることよりも妻であることを望まれた縁談を破談にして以来、独り身を通して、職人としての矜持を持ちながらも、時には思い悩むこともあります。

咲は、去年ある出来事で知り合った、一つ年下の錺師の修次が、気になる存在といったところ。
その時に修次と一緒に出会ったのが、いたずら好きで正体不明の双子の少年・しろとましろでした。

 和泉橋の近くまで来ると、南側の小屋敷沿いから見覚えのある二人の子供が歩いて来るのが見えた。
 咲が神狐の化身だと信じている――人の子としては、七、八歳の双子である。
 二人とも六日前に会った時と変わらぬ格好で、前髪を左右に束ねたおかっぱ頭、藍染の着物と綿入れを着て、納戸色の手ぬぐいを首元に巻いている。
「しろ! ましろ!」
 
(『妻紅 神田職人えにし譚』 P.9より)

一針一針心を込めて縫箔をして仕立てた小物を通して、人と人の縁(えにし)を紡ぐ咲の想いが物語にあふれています。
名も知られ小さな稲荷神社の神狐の化身かもしれない、しろとましろは、不思議な力で咲や修次らを見守ってくれています。

日々の仕事に倦んだり、人間関係に疲れたりしているときに、本書はパワーや癒しを与えてくれる素敵な作品です。

妻紅 神田職人えにし譚

知野みさき
角川春樹事務所 ハルキ文庫
2020年8月18日第一刷発行

文庫書き下ろし

装画:水口かよこ
装幀:藤田知子

●目次
第一話 守り袋
第二話 二羽の雀
第三話 妻紅

本文238ページ

■Amazon.co.jp
『飛燕の簪 神田職人えにし譚』(知野みさき・ハルキ文庫)(第1作)
『妻紅 神田職人えにし譚』(知野みさき・ハルキ文庫)(第2作)

知野みさき|時代小説ガイド
知野みさき|ちのみさき|時代小説・作家 1972年生まれ。ミネソタ大学卒業。現在はバンクーバー在住、銀行の内部監査員を務める。 2012年、『鈴の神さま』でデビュー。同年、『妖国の剣士』で第4回角川春樹小説賞受賞。 ■時代小説SH...