医者見習いの娘おいちが猟奇的な事件に挑む


闇に咲く おいち不思議がたりあさのあつこさんの『闇に咲く おいち不思議がたり』(PHP文芸文庫)は、不思議な能力をもつ娘おいちが活躍する、青春「時代」ミステリーの第3弾です。

おいちは、江戸深川・六間堀町の菖蒲長屋で医者を開業している藍野松庵の一人娘。父のもとで医者の修業中です。

この世に思いを残した人の姿が見えるおいちの前に、血の臭いをまとった男が現われる。商家の若旦那だというこの男は、亡き姉の影に怯えていた。
一方、おいちの住む深川界隈で、夜鷹殺しが立て続けに起きる。その猟奇的な手法に衝撃を受けたおいちは、岡っ引の仙五朗と力をあわせ、ある行動に出るのだが……。


おいちには、この世に伝えたいことがあるのに誰も気が付いてくれない、気づいてもらえない、そんな亡くなった人たちの声が聞こえたり、姿が見えたりする、不思議な能力が備わっています。父に憧れて医者を目指しているおいちは、その力を使って、謎解きをしたり、相手の苦しみを取ったりします。
 
物語は、近所の小間物問屋『いさご屋』の若旦那・庄之助が、松庵のもとを訪れて、長い間、悩み続けながらも、誰にも話せない秘め事を打ち明けるところから始まります。

自分の中に、姉・お京の亡霊がいて、徐々に湧き出してくるという。そして、その姉は『いさご屋』の者をみな憎むようになっていて、遂には祖父を殺したと言います。

おいちは、お京と話ができるかもしれないと考えて、庄之助を助けるために『いさご屋』に住み込むことに……。

 女は動かない。
 口を半ば開け、舌を覗かせている。己の姿に驚き、途方に暮れているような表情だった。
 女の腹は、縦一文字に裂かれている。
 女の動かない眼が、はみ出した臓物を見詰めている。
 血の臭いに誘われて、野犬たちが集まってくる。獲物を争い、威嚇し合う。
 清涼な朝に似つかわしくない唸り声、吼え声が川辺に流れた。

(『闇に咲く おいち不思議がたり』P.14より)


一方で、深川では、夜鷹が腹を裂かれて殺される事件が連続して発生していました。

自分の縄張りで死人を出してしまった、老岡っ引、剃刀の仙五朗は、事件を解決の糸口を見つけるために、松庵とおいちの力を借ります。

「おいちさんは澄んだ水面のようでやす」
 仙五朗が視線を少しだけ漂わせた。
「おいちさんといると、目では見えない相手の姿が徐々に映し出されていく。そんな気がするんですよ。少なくとも、あっしはおいちさんのおかげで、人の真実の姿に気が付いた。気が付けたことが何度もありやした。あんな可愛い娘さんに、この古狸が頼っちまうんですよ。そういう力をおいちさんは持っている。大したお方ですよ。こう言っちゃあ先生に渋い顔をされるでしょうが、あっしは時折、おいちさんを相棒みてえに考えてるときがあるんですよ。この事件、おいちさんにはどう見えるんだ。おいちさんならどう思案するんだなんて、つい、考えちまってね」

(『闇に咲く おいち不思議がたり』P.267より)


夜鷹殺しのような猟奇的な血生臭い事件を扱いながらも、読み味の良い「時代」ミステリーに仕上がっています。
まっすぐな性格で正義感が強い、江戸娘のおいちの魅力がしっかりと描かれている点にあります。さまざまな体験や失敗を通じて成長していく青春小説の王道も楽しめます。

まもなく単行本で刊行されるシリーズ第4作、『火花散る おいち不思議がたり』が楽しみでなりません。


◎書誌データ
『闇に咲く おいち不思議がたり』
出版:PHP研究所・PHP文芸文庫
著者:あさのあつこ

装丁:こやまたかこ+川上成夫
装画:丹地陽子

第1版第1刷:2018年5月22日
770円+税
365ページ
ISBN978-4-569-76838-0

●目次

夜鷹の闇
謎の中へ
見えてくるもの
凍える刃

単行本は2015年6月刊行

■Amazon.co.jp
『おいち不思議がたり』(第1作・PHP文芸文庫)
『桜舞う おいち不思議がたり』(第2作・PHP文芸文庫)
『闇に咲く おいち不思議がたり』(第3作・PHP文芸文庫)
『火花散る おいち不思議がたり』(第4作・PHP研究所)


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