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幕臣にとっての明治維新とは

以前から不思議に思っていたことがある。明治維新時、新政府に恭順を示した旧幕臣たちの心情と身の処し方について、どうもよくわからなかった。明治以後、官軍に抵抗して戦った幕臣たちはごくわずか。上野の山に籠もった彰義隊は二千人程度という。旗本・御家人の数は17,000人ぐらいだから、1割強といったところ。

彰義隊に入隊したり、会津や箱館で戦った旧幕臣は物語によく登場するが、恭順を示したり、無抵抗のまま時の流れに身を委ねた武士たちの姿は、描かれることが少ない。

平山壽三郎さんの『明治ちぎれ雲』は、戊辰戦争前から明治五年ごろまでを舞台としている。幕府の御先手組同心の次男として生まれ、早くに青山の組屋敷を出て、寺子屋の師範の養子になった男・龍之介の目を通して激動の時代を描いている。幕臣の家の生まれながらも、武士としての矜持を捨て、新しい社会体制に順応していこうとする姿が興味深い。

明治ちぎれ雲 (講談社文庫)

明治ちぎれ雲 (講談社文庫)

 だが、町の表通りには、それなりの賑わいがあっても、一本裏通りにはいれば、東京の町は貧しく沈んでいた。太政官も東京府も連日のように布告を出して躍起になっているが、世の中はちっとも立直る様子はない。町をあちこち歩くにつけ、東京と変わった江戸の町の寂れようが、なんとも痛々しい。

 道はごみで薄汚れ、御一新以降、空き家になったままの武家屋敷は門前も塀と塀の間の道も、夏草が生い茂るにまかせ、秋には枯草に覆われている。おまけに近ごろでは、空き屋敷の敷地に茶や桑が植えられて、風に吹かれているしまつだ。

(『明治ちぎれ雲』P.115より)

 物語の中で、明治三年ごろの東京の様子を描いた箇所。維新後順調に近代化が進んでいったと思っていただけに、新鮮な発見である。