江戸の老舗が出てくる時代小説

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花家圭太郎さんの『青き剣舞』を読んでいる。主人公の桑原玄二郎と妻のお芙卯は、秋田から江戸に出て、室町三丁目と町年寄喜多村彦右衛門屋敷の間、浮世小路の奥に住まいを借りている。現在の日本橋界隈に相当する、江戸の中心に暮らしているせいか、江戸時代に創業し、現在も盛業な老舗のいくつかが物語に登場する。

青き剣舞(けんばい) (中公文庫)

青き剣舞(けんばい) (中公文庫)

「おお、そうであったか。よしっ、いまから買うてくる。まだ神茂(かんも)は店仕舞いしておるまい」

 玄二郎が勢いをつけて立つ。神茂は浮世小路の目と鼻の先、小田原町にある。

(P.117より)

ちなみに、神茂は元禄元年の創業だそうだが、当時は神崎屋と名乗っていたようだ。

はんぺんの神茂は、当初は神崎屋と名乗っていたが、嘉永年間に神崎屋十三代目新右衛門が、茂三郎と改名して以来、代々「茂三郎」を襲名している。屋号の神茂は、明治になってから頭文字をとって神崎屋から神茂に変更したと思われる。

(「東都のれん会」のウェブサイトより)

東都のれん会

老舗:東都のれん会:東京:江戸 | Untitled
Untitled on 老舗:東都のれん会:東京:江戸

ほかにも、老舗がいくつか出てくる。

「ご馳……とまではゆくまいが、肴はそなたの背黒にわしのはこれ、笹乃雪じゃ」

「へっ、笹乃雪……でございやすか。あすこの豆富は江戸中の評判で、朝のうちに売り切れちまうってえ話でございやすが」

(P.120)

豆富料理 笹乃雪

笹乃雪 | 創業三百三十三年 豆富料理 根ぎし
笹乃雪は、東京は台東区根岸にある創業三百二十年の豆腐料理専門店です。当時の製法そのままににがりと湧き水のみを使用した豆富の味をご賞味ください。

大坂屋伊勢大掾は小網町にある。南伝馬町の塩瀬と並んで、江戸一番の菓子店である。

(P.202)

大坂屋伊勢大掾は戦災などの関係で三田に店を移して秋色庵大坂屋として現在も商いを続けている。また、六百五十年の歴史をもつ塩瀬は今も「志ほせ饅頭」など伝統の味を守っている。

秋色庵大坂屋

秋色庵大坂家 – お歳暮・お中元・お祝いの贈り物に。元禄年間創業の和菓子の老舗。

塩瀬総本家ホームページ

御菓子老舗 塩瀬総本家
670余年の、のれんを誇る塩瀬総本家公式サイトです。伝統に裏打ちされた「塩瀬」の味を、熟練した菓子職人が技と心で今に伝えます。素材を吟味し、意匠を凝らした逸品。人の目と舌を通し、なによりも人の心を和ませたいと、今日もつくり続けます。

江戸からの老舗を時代小説の中に取り入れて描くことは難しいが、現在のわれわれにとっては、老舗の味や技を通じて江戸を追体験できる貴重な機会なので、ぜひ、登場させてほしいと思う。

コメント

  1. あき より:

    塩瀬は足利将軍の頃からですよね。荒俣宏さんも「にんべん」の話を描いてました。「男に生まれて」だったと思います。

  2. jidai-show より:

    あきさん、情報提供ありがとうございます。『男に生まれて 江戸鰹節商い始末』は、興味深い題材なので、読んでみようと思います。