『浪人若さま 新見左近 決定版(5) 陽炎の宿』|佐々木裕一|双葉文庫
佐々木裕一の時代小説、『浪人若さま 新見左近 決定版(5) 陽炎の宿』(双葉文庫)を紹介します。
本書は、若き甲府藩主徳川綱豊(後の六代将軍徳川家宣)が新見左近と名乗って、市井で悪を懲らしめる、痛快時代小説シリーズの第五弾です。
将軍綱吉との狩りの場で刺客に襲われ、傷を負ってしまった左近。幸い傷も癒え、久々に三島屋での楽しいひと時を過ごした左近のもとへ、国許の甲府の村の領民から、代官の非道を訴える書状が届く。苛政に苦しむ民を案じた左近は、養父で家老の新見正信と、甲州忍者を束ねる吉田小五郎、そして親友の剣豪である岩城泰徳を従え、密かにお国入りを果たすのだが――。葵一刀流が悪を斬る! 最強の傑作王道シリーズ、決定版第五弾!
(『浪人若さま 新見左近 決定版(5) 陽炎の宿』カバー裏の紹介より)
天和二年(1682)、正月。
左近は、前年に狩場で曲者に襲われて胸の傷を負い甲府藩邸に引き籠もり、医者の西川東洋の治療を受けていました。その傷も癒えて久々に三島屋を訪れて、お琴らと楽しいひと時を過ごしました。
「今日は、久々に楽しかった」
左近が言い、送りに出たお琴からちょうちんを受け取って背を返すと、
「次は、いつお会いできますか」
お琴の声が、切なそうに聞こえた。
立ち止まった左近は、
「近いうちに、また」
そう応え、帰途についた。
(『浪人若さま 新見左近 決定版(5) 陽炎の宿』P.19より)
左近は、亡くなった許嫁の妹、お琴のことを恋しく思いながらも、甲府藩主という抗うことが許されない立場に悩み、胸の内を明かすことができずに苦しんでいます。
左近は、親友で剣術道場主の岩城泰徳に、徳川綱豊であることを明かして、苦しい胸中を吐露しました。
そんな中、左近のもとに国許から訴状が届きました。
甲斐国の村の領民が、村の代官の非道を訴える書状を持って密かに村を抜け出して、江戸藩邸に駆け込み、家老である新見正信が訴状を受け取り、藩主の綱豊に渡したのでした。
左近は訴状を受け取った翌日、登城し、将軍綱吉にことの次第を正直に告げて、甲府入りの許しを求めました。
綱吉は初め、左近が自ら仕置きすることを渋りましたが、左近が密かに江戸を抜け出すことを見抜き、お国入りを許可しました。
左近は、徳川綱豊ではなく、新見左近として、お忍びで甲府へ行くことになりました。
供は、正信と泰徳、家臣で甲州忍びの吉田小五郎でした。
今回は江戸から甲府へ旅する一行の道中記が楽しめます。
非道な限りを尽くす代官が登場したり、甲府の国許の家臣たちの間で権力抗争が起こり、裏切りがあったり、道中の宿場町を襲う凶悪な盗賊一味が現れたりと、見どころの連続です。
懲らしめられてもしょうがない悪すぎる悪役たちにに対して、左近は葵一刀流の剣が冴えます。
胸がスッとするカタルシスを覚え、痛快さが癖になるシリーズです。
浪人若さま 新見左近 決定版(5) 陽炎の宿
佐々木裕一
双葉社、双葉文庫
2022年6月19日第1刷発行
カバーデザイン:長田年伸
カバーイラストレーション:室谷雅子
●目次
第一話 忍び旅
第二話 古城の女
第三話 陽炎の宿
第四話 千人同心の誇り
本文269ページ
本書は2012年11月にコスミック・時代文庫より刊行された作品を加筆訂正したもの。
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『浪人若さま 新見左近 決定版(1) 闇の剣』(佐々木裕一・双葉文庫)
『浪人若さま 新見左近 決定版(5) 陽炎の宿』(佐々木裕一・双葉文庫)
