元禄バブルと紀伊国屋文左衛門

山本一力さんの『深川黄表紙掛取り帖』を読み終えた。江戸のバブル期といわれる元禄時代を舞台にした痛快時代小説である。定斎売りの蔵秀(ぞうしゅう)、女絵師の雅乃、絵草紙本作者を目指す辰次郎、飾り行灯師の宗佑の四人の若者が活躍する連作形式で読みやすい。

第一話「端午のとうふ」は、雑穀問屋の丹後屋が発注の間違いで、普段五十しか仕入れない大豆を五百俵仕入れてしまい、その始末のために蔵秀らの知恵を頼るという話。この厄介ごとをいかに解決するかが見どころだが、ミステリばりのプロットも見事。しかし、これはあくまでも物語の登場人物紹介をする顔見世興行的なもの。

第二話「水晴れの渡し」では、小豆仲買商の家の内紛にどう四人が対処するかを縦糸に、紅一点の雅乃の見合いを横糸に、三人の男たちの思いと心意気が描かれている。この話で蔵秀の父で、材木の目利き雄之助が登場し、いい味を醸し出している。

第三話の「夏負け大尽」では、材木商紀伊国屋文左衛門(紀文)が二十代の若者として登場し、四人の若者と知恵比べをする。バブルの象徴ともいえる紀文と、その対極に深川に暮らす人々の清廉さが描かれていて、市井小説の面白みがある。

その紀文も、単なるバブルおやじではなく、作中ではなんと二十代として登場するが、一本芯が通ったリスペクトできる人物として第四話と第五話で描かれていく。美点がまったくなければ、成功もしないのだろう。そういえば、山本一力さんの『いっぽん桜』に収録された「そこに、すいかずら」にも紀文が登場する。こちらもおすすめ。

元禄バブルの要因を考えると、小判の改鋳が大きい。二枚の小判から三枚の新小判を鋳造すれば数百万両の出目(差益)が生まれる。莫大な出目が幕府の金蔵に入ると知った将軍綱吉は、寛永寺の根本中堂や永代橋の建造、日光社参、大規模な犬小屋の設置など公共事業を積極的に行う。金貨の価値の低下にともない物価高を生む。なるほど。

深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)

深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)

いっぽん桜 (新潮文庫)

いっぽん桜 (新潮文庫)

コメント

  1. 絶間@司馬ふぁん より:

    北方謙三さんが司馬遼太郎賞を受賞なさいましたね♪

  2. 理流 より:

    情報提供ありがとうございます。『水滸伝』での受賞のようですね。