2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

【新着本】PHP文芸文庫2025年5月発売の新刊

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PHP文芸文庫の2025年5月の新刊をご紹介します。
今月のラインナップは、あさのあつこさんによる「おいち不思議がたり」シリーズ第6巻『渦の中へ』、天津佳之さんの第12回日経小説大賞受賞作『尊氏と正成 ともに見た夢』、そして寺地はるなさんの現代小説『ガラスの海を渡る舟』の3作品です。

『渦の中へ おいち不思議がたり』

<渦の中へ おいち不思議がたり (PHP文芸文庫)あさいのあつこ
PHP研究所・PHP文芸文庫

装丁:こやまたかこ
装画:丹地陽子

あらすじ
医者を目指しながら、女としての幸せもつかもうとするおいちは、飾り職人・新吉との結婚を決意する。しかし祝言の当日、ある商家で毒物混入事件が発生し、若旦那の乳母が服毒死する。犯人として名乗り出たのは、かつて菖蒲長屋に住んでいた人物だった――。
この世に思いを残して亡くなった人の声を聞けるおいちは、果たしてこの奇怪な事件の謎を解くことができるのか。
仕事も家庭も手に入れたいと願う娘の奮闘と成長を描いた、話題の青春「時代」ミステリー第六弾。

(カバー裏の説明文より抜粋・編集)

ここに注目!
おいちは、深川六間堀町の菖蒲長屋に暮らす町医者・藍野松庵の娘。母を早くに亡くし、父のような医者を目指して修業中です。彼女には、この世に心残りを抱えて亡くなった者の姿が見えるという不思議な力があります。

物語の始まりは、そんなおいちが飾り職人の新吉と祝言を挙げたばかりの出来事。ところが祝言の当日、近所の油屋『浦之屋』で毒物混入事件が発生し、松庵のもとに助けを求める使いがやって来ます。花嫁姿のおいちも普段着に着替えて現場に駆けつけました。

患者は十五人。『浦之屋』の家人や奉公人のほぼ全員で、無事だったのは生後三か月の赤子とその乳母だけ。松庵たちの治療により全員が一命を取り留めますが、やがてその乳母が毒を入れたとする書き置きを残して自死してしまいます。

しかし、本当に乳母が毒を入れたのでしょうか?

本シリーズの魅力は、おいちの不思議な力を通して、事件の犠牲者の心情に寄り添い、真相へと迫っていく展開にあります。また、謎解きと並行して、仕事や家庭について悩みながら成長していく等身大の江戸娘・おいちの姿も描かれ、読者の共感を呼ぶ青春時代小説としても楽しめます。

目次
花曇りの空
薄明りの道
闇夜の底
さやかな風音
遥か彼方
さらに彼方へ
秘め事と囁き
月夜と朝露

2025年5月21日 第1版第1刷
本文361ページ

『渦の中へ おいち不思議がたり』(PHP研究所、2023年5月刊)の単行本の文庫化です。
https://www.jidai-show.net/bookguide/asano_atsuko/

『尊氏と正成 ともに見た夢』

尊氏と正成 ともに見た夢 (PHP文芸文庫)天津佳之(あまつ・よしゆき)
PHP研究所・PHP文芸文庫

装丁:大原由衣
装画:yoco

あらすじ
鎌倉幕府の討幕を企てた後醍醐天皇は、壱岐に流される。しかし、千早城で徹底抗戦する楠木正成に呼応するように、幕府方であった足利高氏(のちの尊氏)が寝返り、ついに幕府は滅亡する。
「利生」――民がそれぞれの本分を果たし、生きる甲斐のある世をつくるという志を抱く後醍醐天皇。その理想を掲げて始まった建武の新政で、尊氏と正成はともにその実現を目指すが、やがてふたりの運命は引き裂かれていく。
本書は、『利生の人 尊氏と正成』を改題した作品である。

(カバー裏の説明文より抜粋・編集)

ここに注目!
本書は、2020年に第12回日経小説大賞を受賞した『利生の人 尊氏と正成』を改題したものです。同賞は2023年の第15回をもって終了しました。歴史時代小説と相性の良い貴重な新人賞だっただけに、その幕引きは惜しまれます。

今村翔吾さんの最新作『人よ、花よ、』によって南北朝時代への関心が高まる中、本書もまた、その時代を深く掘り下げた作品です。足利尊氏、楠木正成、後醍醐天皇という三人の視点から、理想と現実の狭間で揺れる激動の時代を描いています。

「利生(りしょう)」とは、仏や菩薩が衆生に利益を与えることを意味する仏教用語。物語の中で後醍醐天皇は、民の仏性を信じ、互いに本分を尽くし合う政治を志として楠木正成に語ります。

この「利生」は、正成の理想であるとともに、「人が生きる甲斐のある世をつくってほしい」という思いを天皇に託した足利高氏の信念にも通じるものでした。

鎌倉幕府の滅亡から建武の新政、そして湊川の戦いへ――。『太平記』の時代を、新たな視点と人間ドラマで描き出す力作です。

目次
序 法燈
壱 挙兵
弐 新政
参 決裂
四 湊川
終 利生

2025年5月21日 第1版第1刷
本文367ージ

『利生の人 尊氏と正成』(日本経済新聞出版・2021年2月刊)を改題し、加筆・修正したもの)

天津佳之|時代小説ガイド
天津佳之|あまつよしゆき|時代小説・作家1979年生まれ、静岡県伊東市出身。大正大学文学部日本語・日本文学科卒業。2020年、『利生の人 尊氏と正成』で第12回日経小説大賞を受賞し、2021年同作で単行本デビュー。時代小説SHOW 投稿記事...

『ガラスの海を渡る舟』

ガラスの海を渡る舟 (PHP文芸文庫)寺地はるな(てらち・はるな)
PHP研究所・PHP文芸文庫

装丁:岡本歌織(next door design)
装画:ゲレンデ

あらすじ
大阪の空堀商店街で『ソノガラス工房』を営む兄妹、道と羽衣子。兄の道は人とのコミュニケーションが苦手で、「みんな」と協調することができない。一方、妹の羽衣子は何事もそつなくこなすが、突出した「何か」がなく、自分の個性を見出せずにいた。
正反対のふたりは、祖父の遺言により共に工房を継ぐが、衝突は絶えなかった。そんなある日、「ガラスの骨壺を作ってほしい」という依頼が舞い込む――。兄妹がともに過ごした十年間を描いた傑作。

(カバー裏の説明文より抜粋・編集)

ここに注目!
本書は現代小説です。「時代小説SHOW」で取り上げることに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、それでもなおご紹介したい理由があります。

巻末の解説では、『炭酸水と犬』の著者・砂村かいりさんが、作家ならではの表現で本作の魅力を語っています。まさにこの作品にふさわしい名文であり、思わず「こんな解説が書けたら」と憧れを抱くような文章です。

寺地さんの小説は、沼の底から引きあげてくれる腕であり、くすんだ心や錆びついた感性を磨いてくれる砥石であり、背中をそっと押してくれる風である。(後略) (『ガラスの海を渡る舟』解説 P.274より)

時代小説が「現実から少し離れた物語」を描いている間に、多くの書店員や読者に愛されている現代小説は、日常に生きづらさを抱える人々の心にそっと寄り添う存在になっているように思います。
それは、コロナ禍を経験したわたしたちが、今求めている物語なのかもしれません。

本書の舞台である大阪・空堀商店街は、大坂冬の陣の後に埋め立てられた大坂城南惣構堀の遺構の上に位置し、第二次世界大戦で大きな被害を受けた大阪市内にあって奇跡的に焼け残った、レトロな雰囲気の残る商店街です。

複雑な家庭環境を背景にしつつも、等身大のキャラクターたちが織りなすリアリティある物語に、いつしか心が引き込まれていきます。
時には気分を変えて、こんな「大阪小説」に触れてみてはいかがでしょうか。

目次
序章 羽
第一章 骨
第二章 海
第三章 舟
終章 道

謝辞
解説 砂村かいり

2025年5月21日 第1版第1刷
本文274ページ

『ガラスの海を渡る舟』(PHP研究所、2021年9月刊)を文庫化にあたり、加筆・修正を行ったもの。

寺地はるな|作品ガイド
寺地はるな|てらちはるな|小説家1977年、佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年、『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。2020年、令和2年度咲くやこの花賞受賞。2021年、『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞を受賞。202...