戦国千手読み 小説・本因坊算砂|堺屋太一|PHP研究所
堺屋太一(さかいや・たいち)さんの『戦国千手読み 小説・本因坊算砂』(PHP研究所)が新たに本棚に加わりました。
2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』では、天下人の弟・豊臣秀長を主人公に据え、仲野太賀さんが主演を務めることでも注目を集めています。ドラマの放送決定にともない、堺屋太一さんの歴史小説『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』にも改めて関心が高まっています。本書は、秀長の人物像を知るうえで最適な一冊といえるでしょう。
著者について
堺屋太一さんは、1935年に大阪府で生まれ、2019年に逝去されました。東京大学を卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省し、1970年の大阪万博開催を成功に導きました。1975年に『油断!』で作家デビューし、翌1976年には『団塊の世代』を発表。1978年に通商産業省を退官し、執筆活動に専念されました。その後、1998年に経済企画庁長官、2000年には内閣特別顧問を務めています。
歴史小説の分野では、『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』のほか、信長と光秀の対比を描いた『鬼と人と』や、赤穂浪士の討ち入りを題材にし、大河ドラマにもなった『峠の群像』などがあります。
物語のあらすじ
天下布武へと邁進する信長だったが、武田との激闘、一向一揆との泥沼の戦い、荒木村重の謀反など、難局が続いていた。そうしたなか、若くして見出された日海(にっかい)は、囲碁を通じて信長にさまざまな献策を行う。
そして、不穏な情勢のなか迎えた天正10年(1582)、毛利攻めへ向かうため、信長は京都・本能寺へ宿泊する。6月1日の夜(本能寺の変の前夜)、信長の御前で囲碁の対局をした日海。その対局で、万に一つもできず、不吉なことが起こる前兆ともいわれる「三コウ」が現れる。果たして、それが意味するものとは……。(『戦国千手読み 小説・本因坊算砂』Amazonの紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
本書は、囲碁の家元・本因坊家の創始者である本因坊算砂(ほんいんぼう・さんさ)を描いた歴史小説です。
物語は、天正二年(1574)四月、京都・相国寺から始まります。16歳の新発意(しんぼち・成りたての僧)である日海(にっかい。後の本因坊算砂)は、宮中にも招かれる囲碁の名手・鹿塩利斎(かしお・りさい)との対局で終始優勢に進め、その実力を織田信長に認められます。そして、囲碁の名手として信長に仕えることになります。
日海は、治安が不安定な中、堺から岐阜まで大金を運ぶ茶人・今井宗久のために、「戦車」を造ることを提案します。なんと彼は、四百年後の20世紀に戦場で活躍する戦車の概念を知っていたのです……。
物語は伝奇的な要素を取り入れながらも、長篠の戦いや荒木村重の反乱、安土宗論など、信長が天下布武を進める中で起こる数々の出来事を描き出します。
特に注目すべきは、天正七年(1579)に行われた安土宗論の詳細が描かれている点です。日蓮宗の僧である日海にとって、浄土宗との宗論で敗北したことがどのような意味を持ち、どのような影響を及ぼしたのかが、物語の中で深く掘り下げられています。
本能寺の変の前夜、信長の前で囲碁の対局をした日海は、「三コウ」と呼ばれる珍しい手を作りました。
この「三コウ」は、どちらも勝てず、どちらも負けない無勝負引き分けとなることで、『天下の乱れ永劫に続く』という凶兆とされています。それを聞いた信長は……。
日海は信長だけでなく、豊臣秀吉や徳川家康にも重用され、最終的には徳川幕府から禄を受け、囲碁の家元として本因坊家を築いていきます。
また、本書は月刊誌「歴史街道」の連載から30年を経て、今回初めて書籍化された点も見逃せません。戦国武将ではないものの、囲碁界の始祖である本因坊算砂と織田信長の交流を描いた本作は、歴史小説としての醍醐味を存分に味わえる作品です。
さらに、小説本編とは別に、各章の終わりには「実録・本因坊算砂」という著者による人物解説が付されており、物語の理解をより深めることができます。連載執筆時の1990年代における、ビジネスマン向けの教養書という、歴史小説の役割も感じ取れる一冊です。
今回取り上げた本
書籍情報
戦国千手読み 小説・本因坊算砂
堺屋太一
PHP研究所
2025年2月12日第1版第1刷発行
装丁:芦澤泰偉
装画:大竹彩奈
目次:
第一章 金の一手
第二章 堺の戦車
第三章 怨霊
第四章 八百年差の戦い
第五章 時運人才
第六章 「仕掛け」か「仕組み」か
第七章 誘いと脅し
第八章 人が石になる時
第九章 「勝手読み」を誘え
第十章 長篠――または近代のはじまり
第十一章 教義と方便
第十二章 以論不救門――言葉で組織は救えない
第十三章 敵を活かす
第十四章 「鬼」の役割
第十五章 「陽志」対「陰念」
第十六章 熱狂の日々
第十七章 本能寺
最終章 事変
本文490ページ
本書は、月刊「歴史街道」1994年1月号~1995年6月号の連載「戦国千手読み――小説・本因坊算砂」に加筆・修正したもの。
