土佐への郷愁と深川の粋―『牡丹酒』

年末年始に山本一力さんの『牡丹酒』を読んだ。一力作品で、日本酒、土佐と、年末年始っぽい感じがして選んだ一冊。

牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二) (講談社文庫)

牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二) (講談社文庫)

山師(諸国の山に入り、材木の吟味、値付け、伐り出しの段取りまで伐採のすべてを差配する職業)の雄之助は、土佐・佐川村で「司牡丹」(つかさぼたん)という銘酒に出合う。そして、酒蔵の黒鉄屋から頼まれて江戸でこの酒を広めると請け負い、佐川村から四斗樽一杯の司牡丹を深川まで運んで帰ってきた。雄之助から仔細を聞かされた、定斎売り蔵秀(ぞうしゅう)、飾り行灯師宗佑、文師辰次郎、女絵師雅乃の広目稼業四人衆は、佐川村までの道中で厄介ごとを片付けながら、知恵と技を揮った大仕掛けを施す…。

「これほどの酒を、南国の土佐が造っていたとは……」

 ひとりごとをつぶやいてから、吉保は盃の残りを干した。

「ひとに媚びない、生一本な味だ」

 吟味したことを、はっきりと口にした。

(『牡丹酒』P.101より)

柳沢吉保のセリフを聞いて、この酒「司牡丹」が飲みたくなってしまった。また、物語の中で吉保は、土佐産の鰹の塩辛に、「酒盗」(しゅとう。酒の肴でありながら、酒をわきに追いやりかねぬ美味さ。それゆえ酒を盗むという意味から)という名を付けている。

「司牡丹」

司牡丹 公式WEBサイト

作者の故郷である土佐の風景が郷愁を誘う。NHK大河ドラマ「龍馬伝」でも注目される土佐に浸ってみるのもいいかも。

 深川の住人は、だれもが富岡八幡宮は天気に強いということを知っている。それゆえ、たとえ今日は強い雨が続いていても、明日の勧進相撲の当日はカラリと晴れ上がると信じていた。

 おひでと辰次郎は、安請け合いをしたわけではない。こども時分から深川に育った者ならだれでも、明日は富岡八幡宮の威光で晴天になると、強く信じているのだ。

(『牡丹酒』P.431より)

土佐のほかに、江戸・深川っ子の粋と矜持も描かれている。また、大坂のうなぎの名店「阿み彦」も登場する。

「阿み彦」

http://阿み彦.jp/

『牡丹酒』は、『深川黄表紙掛取り帖』の続編で、四人組については友情や恋、仕事ぶりなども描かれている。ほかにも、紀伊国屋文左衛門や大田屋精六など前作に引き続いて登場するのがファンにはうれしいところ。

深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)

深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)