関八州を巡る道中が楽しい―六地蔵河原の決闘

佐藤雅美(さとうまさよし)さんの『六地蔵河原の決闘』は、「八州廻り桑山十兵衛」シリーズの第六弾である。

八州廻りは文化二年に置かれて、正しくは関東取締出役という。関八州(武蔵、相模、上総、下総、安房、上野、下野、常陸)で悪党者がはびこらぬように廻村してまわり、土地土地の岡っ引ともいうべき道案内を引き連れて事件を解決するのが役目。

『六地蔵河原の決闘』では、八州廻りが派手な悪党者退治や捕物ばかりでなく、治安の維持や風俗の取り締まりから、組合村つくりの指導や質屋への冥加金の取立てまで行っていたことが描かれていて、リアルな感じがする。

リアルさというと、この物語で描かれる町人たちや農民たちが、武士を前にしてもおどおどせず、主張すべきことは一歩も引かずに主張したり、したたかさを見せたりしている。そこには、武士が農民を一方的に搾取するといったステレオタイプな図はない。そのため、登場人物が生き生きとして描かれて物語にリアリティを与えている。

さて、物語は幸手(権現堂堤の桜で有名)での事件を解決して江戸に戻ってきた十兵衛が、帰り着いた我が家で娘の八重に迎えられるところから始まる。八重は、十兵衛と前妻の瑞江の間に生まれた子で、十年ほど昔に、七百石取りの旗本山村左門に預けた娘で、以来一度も顔を合わせていなかった。後妻の登勢は実家に帰ったという。関八州の各地で待ち構えている事件のほかに、家庭内もなにやら不穏な気配が…。

家にめったにいない父と年頃の娘の微妙な関係が作品にホームドラマ的な面白さを加えている。とはいえ、このシリーズの魅力は八州廻りという役目を生かした道中物(ロードムービー)的な面白さである。ヒマを作って十兵衛の廻る場所を地図にプロットしていってみたい。「木枯し紋次郎」の巡った後と対比させてみたりして、興味は尽きない。