江戸の数学と愛をテーマにした傑作時代小説

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鳴海風(なるみふう)さんの『円周率を計算した男』を読んだ。10年ぐらい前に単行本で刊行されたときに読んでいるが、例によってストーリー展開など細部の記憶がすっかり抜け落ちていたので、初めて読むような感じで面白く読めた。鳴海さんは、1992年に表題作で、第16回歴史文学賞を受賞している。

円周率を計算した男 (新人物文庫)

円周率を計算した男 (新人物文庫)

「円周率を計算した男」

世界で初めて円周率自乗の公式を発見した幕臣建部賢弘(たてべかたひろ)と師で算聖と呼ばれる関孝和の交流、賢弘の研究を助ける妻・春香と兄・賢明の献身ぶりを描く。

「初夢」

算学に打ち込む銀座役人・平野忠兵衛とその女房の夫婦愛を描く。『美しき魔方陣』の主人公で大酒飲みの天才数学者・久留島義太(くるしまよしひろ)も登場する。

美しき魔方陣―久留島義太見参! (小学館文庫)

美しき魔方陣―久留島義太見参! (小学館文庫)

「空出」

久留米藩主で若いころから算術をたしなみ著書を持つ有馬玄蕃頭頼徸(ありまげんばのかみよりゆき)は、ある事件でガエンの清七を侍(藩士)に取り立てる。

「算子塚」

関流に対抗する最上流創始者の会田安明(あいだやすあき)と関流の数学者・神谷定令(まいやていれい)の友情と憎悪を描く。

「風狂算法」

越後水原出身の数学者の山口和(やまぐちかず)の算術にかける思いと彼を慕う娘との愛を描く。

「やぶつばきの降り敷く」

天保九年、長谷川寛の数学道場の後継者選びをめぐって起こる事件を描く。

和算(算学、江戸時代の数学)をテーマにした6篇の短篇を収録している。初読時には、和算とい新しい世界に、知的好奇心を満たされ、魅了されたが、再読してみると、いずれの作品も和算の世界に題材をとりながらも、男女の愛をしっかりと描いていること、登場人物たちが算学者とはいえ生身の人間であることにあらためて気付く。大学、メーカーのエンジニアとしてずっと理系を進むかたわら、和算の研究をし、和算の世界に題材を取った小説を書き続けてきた作者ならではということができる。

6つの作品は時系列順に並んでいて、通して読むと和算史が概観できる。

この本のおすすめ度:★★★★☆☆