臥煙と呼ばれる火消しを主人公にした時代小説

浅黄斑(あさぎまだら)さんの『衣紋坂の時雨 湯島・妻恋坂ごよみ』を読んだ。浅黄さんは最近注目している時代小説作家の一人。今回は、臥煙(がえん)と呼ばれる定火消の火事場人足が主人公。臥煙は荒くれ者が多くて、只飲み只食いは日常茶飯事で、銭さしを法外な値段で押し売りしたりするので、江戸市民には嫌われていたが、その反面、命を的に火の中に飛び込んでいくので女たちにはよくもてた。

篠原源三郎は、三十俵二人扶持(計四十俵)の家禄の貧乏旗本の三男坊。十七の歳に、生活を楽にするために、臥煙になり、背中に毘沙門天の刺青を入れた。角細工師の娘・おいとに見初められて、子どもができて夫婦になったばかり。その源三郎が、火事で三千石の寄合席の旗本・岡野知暁の命を救ったところから、次々と事件が降りかかってくることになる…。

源三郎を主人公とした痛快で、ホロっとさせられるところもある、人情時代小説である。田沼時代の幕開けという時代の雰囲気もよく伝わってくる傑作。第2作めの発行が待ち遠しい。

タイトルにある妻恋坂は神田明神近くにある坂で、妻恋稲荷があることで知られ、源三郎の実家である、湯島三組町の小十人組の組屋敷がある場所。まぎらわしい感じもするが、「衣紋坂」のほうは吉原の大門への道として知られる。