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棄捐令をテーマにした時代小説

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山本一力さんの『損料屋喜八郎始末控え』を久々に読み返した。深川を描いた名作をピックアップしていて、本を取り出して読み始めたら面白くて、つい最後まで読んでしまった。この作品は、山本さんの初の長篇時代小説であり、単行本刊行当時(2000年5月ごろ)にメールでご紹介いただいたことを思い出した。

損料屋喜八郎始末控え (文春文庫)

損料屋喜八郎始末控え (文春文庫)

作品は、天明八年(1788)の富岡八幡宮の例祭の前日から始まり、寛政二年(1790)の富岡八幡宮の例祭の日までを描いている。損料屋の喜八郎は、札差・米屋が店じまいをすることになり、その手伝いをすることになった。喜八郎は、かつて北町奉行所の蔵米方同心で、先代の米屋の主人に多大な恩義があった…。

物語は、ちょうど、松平定信が老中として寛政の改革を始めたころである。幕臣の札差に対する借財を帳消しに「棄捐令(きえんれい)」が発布される前後の様子が物語の中に巧みに取り込まれていて、興趣がつきない。商い下手の米屋の二代目政八、実力者・伊勢屋四郎左衛門、小判に自らの屋号を極印した笠倉屋平十郎ら、個性的な札差たちが登場し、喜八郎と知恵比べをする。山本作品ではおなじみの参道わきの料理茶屋江戸屋の女将・秀弥も凛とした美しさで魅力を放っている。

棄捐令をめぐる札差たちの悲喜劇を描く「万両駕籠」、巨額の投資話の顛末が興味深い「騙り御前」と「吹かずとも」、江戸屋の奉公人たちの婚儀が感動的な「いわし祝言」と、一話完結の連作形式で、江戸の経済と人情を爽やかに綴った時代小説。心地よい余韻が残る作品である。

コメント

  1. 絶間 より:

    なにげなく4年ほど前の文春文庫の最後のページの広告のところを見たら、『「料屋喜八郎始末控え」は山本さんのデビュー作とかいてありました。本当のデビューといえなくとも初長篇時代小説というのは知らずに読んだ私は愕きです。非常にがっちりしたいい小説でした。

  2. jidai-show より:

    山本さんはこの本が出版されるまでに、何回も書き直されたという話を聞きました。山本さんもすごいですが、このときの編集者もすごいと思いました。