『伊賀者疾る 密命 はみだし新番士3』 『闇の仕置人 御隠居用心棒 残日録4』 『南町 番外同心7 若様 危うし』
2025年5月下旬に刊行された、二見時代小説文庫の新刊3冊をご紹介いたします。
氷月葵(ひづき・あおい)さんによる『伊賀者疾る』は、若き将軍・徳川家斉の密命を受け、市中を探索する若侍・壱之介を描いた、痛快シリーズの第3弾です。
森詠(もり・えい)さんの『闇の仕置人』は、相次ぐ札差殺しの仕置を依頼した黒幕に、御隠居用心棒・元之輔が挑むシリーズ第4作です。
牧秀彦さんの『若様 危うし』は、置き手紙を残して武州へ旅立った若様の活躍を描く、人気シリーズの第7弾です。
伊賀者疾る 密命 はみだし新番士3
カバーイラスト:浅野隆広
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
あらすじ
伊賀者を市中に放ったのは誰か?
老中首座・松平定信が文武を奨励したことで、近ごろは次々と剣術道場が開かれています。そうした中、市井を探索していた壱之介は、町じゅうに隠密がはびこっていることに気づきます。
盗人から呉服屋の手代を救った壱之介は、盗人退治の手助けをすることになりますが、出奔した呉服屋の息子が悪事に加担している疑いが浮上します。果たしてこの窮地から抜け出す手立てを見つけることができるのでしょうか。
(『伊賀者疾る 密命 はみだし新番士3』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
本書では、天明八年(1788)二月、松平定信が老中首座に就任した翌年の江戸を舞台に、幕臣への文武奨励政策が始まった時代の空気が描かれています。
同年四月には、10代将軍・徳川家治の死去に伴い、わずか15歳の家斉が11代将軍に即位しました。本シリーズ第1巻では、その将軍交代の様子が活写されています。家斉はその後、50年にわたって将軍位にとどまりますが、本作では、まだ初々しい少年将軍としての姿が描かれており、見逃せません。
シリーズの主人公・不二倉壱之介は、将軍警護を担う新番士の家に生まれ、幼少期より家斉に仕えてきた忠臣の一人です。
家斉は、老中首座として権勢を振るう松平定信に対抗するため、壱之介に市中探索の密命を下します。壱之介は市井で定信の政策を見張り、暗躍する隠密たちと対峙していくのです。
蔦屋重三郎も登場し、壱之介に絡んでいきます。
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で描かれる時代と重なり合う背景も、本シリーズをより興味深いものにしています。
今回取り上げた本
目次
第一章 町に耳あり
第二章 武装する大店
第三章 伊賀者の番人
第四章 八丁堀の服部半蔵
第五章 変わり身
2025年6月25日 初版発行
本文274ページ
文庫書き下ろし

闇の仕4置人 御隠居用心棒 残日録4
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
あらすじ
殺害の依頼人はいったい誰なのでしょうか?
札差を狙った殺害事件が続く中、桑原元之輔が依頼されたのは、札差・大口屋清兵衛の用心棒でした。功罪相半ばする清兵衛を抹殺したいと望むのは、いったい何者なのでしょうか。やがて、意外な人物が浮かび上がってきます。一方、元之輔と現藩主・坂井忠住に強い恨みを抱く本宮玄内は、秘剣「枯葉返し」を編み出し、二人の命を狙います。背後には、老中・水野忠良の影も見え隠れしています。
果たして元之輔は、意地と人情、そして義を貫くことができるのでしょうか――。
(『闇の仕置人 御隠居用心棒 残日録4』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
著者・森詠さんは、1971年に『黒い龍』で作家デビューを果たし、1983年には日本冒険作家クラブの創設にかかわるなど、スパイ小説や冒険小説、架空戦記といった分野で長く活躍してきました。代表作の一つ『燃える波濤』では、第1回日本冒険小説協会大賞 感謝感激大長編賞を受賞しています。
その森さんが時代小説の執筆を始めたのは2005年のこと。2010年からは、二見時代小説文庫より「剣客相談人」シリーズ(全23巻)を刊行し、時代小説作家としても確固たる地位を築かれました。
そして2025年5月には、幕末の北関東の小藩を舞台に、下級武士を主人公とした長編時代小説『川は流れる』(小学館)を上梓されました。作家活動の集大成ともいえる注目作です。
本作『闇の仕置人』は、羽前長坂藩の元江戸家老兼留守居役で、現在は御隠居用心棒として活躍する桑原元之輔が、さまざまな陰謀に立ち向かう物語です。
札差を狙った連続殺人事件、老中による陰謀、そしてかつての宿敵が編み出した秘剣との対決――。痛快さと人情味が詰まった本作は、時代小説ファンの心を癒す一冊となることでしょう。
今回取り上げた本
目次
第一章 仕置人参上
第二章 「しのばず」の惨劇
第三章 闇の世界の掟
第四章 善悪の二足草鞋
2025年6月25日 初版発行
本文323ページ
文庫書き下ろし

南町 番外同心7 若様 危うし
カバーイラスト:蓬田やすひろ
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
あらすじ
武州で狙われた若様。
南町奉行所の番外同心仲間に何も明かさず、師父の玄真に言伝と置手紙のみを残し、若様が姿を消した。向かった先は武州。兄弟弟子の玄妙が住職として預かる寺が悪事に利用されると危ぶんでのことだ。しかし、そこには若様を捕えようと悪しき旗本と玄妙の姉である妖婦が待ち構える。若様の出自を知る江戸の仲間は救出に向かうが……。若様は本懐を遂げることができるか?(『南町 番外同心7 若様 危うし』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
三年前に江戸に現れた若様は、襤褸と化した弊衣をまとい、汚れ放題の乱れた髪は伸びた坊主頭姿で、永代橋の東詰め、夜の寒気をはらんだ川風が容赦なく吹き付ける川端に結跏趺坐して、合掌したまま息絶えようとしていました。行き倒れになりかけたところを助けられました。
記憶を失い、自分の名前さえ思い出せずにいますが、尋常でなく拳法ができて、頭の切れも冴えた若様は、南町奉行根岸肥前守に見込まれて、名無しの番外同心として活躍することに。
本書では、若様が番外同心仲間にも告げずに、密かに江戸を出るところから物語が始まります。
厄介ごとに巻き込まれた、武州の寺の住職を預かった兄弟子・玄妙を救うためでした……。
本作の面白さは、高貴な身分の生まれながら、出家した挙句、名無しの番外同心となった若様の波瀾万丈の過去。
そして、若様が幼い頃から仏道の修行とともに学び修めた拳法にあります。
出家が用いる拳法は、あくまで身を守るための術で、相手の命まで奪ってはならないという戒めもある中で、若様がいかに拳法を振るうのか、大いなる読みどころです。
また、兄弟子の玄妙の本性が愚劣で、若様がそのことを知りながらも助けにいくところが、興趣を高めています。
今回取り上げた本
目次
第一章 若様、武州へ
第二章 気を揉む同士
第三章 若様 危うし
第四章 徳なき者たち
第五章 先陣競うまじ
第六章 危うき夫婦
第七章 待つのは若様
第八章 目指すは誰か
2025年6月25日 初版発行
本文302ページ
文庫書き下ろし
