武士の金銭事情を解き明かす歴史読み物

歴史家の安藤優一郎さんが、KKベストセラーズのベスト新書から『鬼平の給与明細』を発行されました。

鬼平こと長谷川平蔵がタイトル名に入り、時代劇・時代小説のファンには食指の動く本です。

第一章では、鬼平の素顔を金銭事情から紹介しています。第二章、第三章では、江戸の武家社会や御家人の生活を金銭面から見ていきます。第四章では、大岡越前や勝小吉(海舟の父)から旗本の家計事情を取り上げています。さらに第五章では、幕末から明治にかけて武士の消滅していく過程を給与(家禄)から解き明かしていきます。

「武士は食わねど高楊枝」の言葉から、武士社会では金を軽視する風潮があるように思われていますが、実際はどうだったのでしょうか。興味深いテーマなので、楽しみながら読んでみたいと思います。

安藤さんは、ここ数年、精力的に江戸時代を取り上げた歴史新書本を多数執筆されています。いずれの本も現代人の視点で、ビジネス書っぽい切り口を取り入れて、わかりやすく書かれています。


井上ひさしさんの訃報

作家の井上ひさしさんが3月9日、肺がんのため死去。75歳でした。

井上さんといえば、中高生の頃にそのユーモア小説(『ブンとフン』や『青葉繁れる』など)を愛読していました。また、大学生のころ、「イーハトーボの劇列車」などの芝居を見たことも思い出されます。

江戸の戯作者の世界を描いた『手鎖心中』や伊能忠敬を描いた『四千万歩の男』など、いくつかの面白い作品を発表されています。しかしながら、時代小説の作家としてのイメージがあまりありません。今まであまり気にしてこなかったのですが、不思議です。

個人的には、戯作者のエピソードを綴った『戯作者銘々伝』が、今、読み返してみたい本のひとつです。








Wikipediaなどネットでは、井上さんのプライベートな面のネガティブな話が出てきて、そちらのほうが耳目を集めてしまったようで、残念です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E3%81%B2%E3%81%95%E3%81%97

『汐のなごり』と酒田の町

北重人さんの『汐のなごり』は、出羽の架空の町・水潟を舞台にしています。この町は自然や湊町の風景ばかりでなく、風習や気質の面でも酒田をモデルにしていることが伝わってきます。

「塞道の神」では、小正月に行われる塞道の祭りが描かれ、幕見のことにも触れられています。

 塞道の祭は、朝未き、太鼓と町内への呼ばわりで始まるのである。
 小路の辻に出ると、男たちが数人、長い黒板塀に大きな幔幕を張っていた。幕見の幕である。源平の合戦や大江山の鬼退治などを描いた幔幕が町内ごとに張られる。市中の者や近在から出て来た者がそれらを見物して廻る。それを幕見と称していた。
(「塞道の神」P.215より)


http://www1.bbweb-arena.com/ryu1/myweb14_018.htm

また、酒田は北前船の寄港地であり、幕府や諸藩の米の廻米にも関わっていたこともあり、米会所がありました。

 当時水潟では、あちこちで相場が張られていた。公許の帳合米相場は米会所の市場だけなのだが、相場好きが多く、それぞれの身代に合わせて相場を張るのである。
 まず、合百という相場があった。
(「合百の藤次」P.292より)


「合百の藤次」は、その帳合米相場で身代を賭けて相場を張る男たちが描かれています。享保期に登場した本間宗久は酒田の米商人で、米相場で莫大な富を築き、本間家の勃興を支えた人物です。彼が考案したという「酒田五法」は現在でも株の売買などで有効といわれています。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E9%96%93%E5%AE%97%E4%B9%85

酒田の町を訪れてみたいと思いました。




「爽太捕物帖」、久々の復活

北原亞以子さんの『消えた人達』を読み始めました。鰻屋「十三川(とみかわ)」の入聟で十手持ち(岡っ引き)の爽太が活躍する捕物小説の第2弾です。前作の『昨日の恋』からずいぶん時間が経過したように思います。

さて、前作は連作形式で七編を収録していましたが、今回は長編で、主人公の爽太が中山道を駆けるようです。何とも読み進めるのが楽しみです。




『小伝抄』の星川清司さんの2年遅れの訃報

今日(2010年4月9日)の朝日新聞・朝刊に、作家や脚本家として活躍された星川清司さんの訃報が2段抜きで掲載されていました。比較的大きめな扱いになっていたのは、星川さんが亡くなられていたのが2年近く前の2008年7月25日で、本人の意思でその死が伏せられていたことと、年齢を5歳若くサバを読んでいて直木賞の最高齢受賞者だったことからです。

星川さんは、市川雷蔵主演の「眠狂四郎シリーズ」の脚本や、『小伝抄』や『櫓の正夢―鶴屋南北闇狂言』などの芸事の世界を舞台にした時代小説で知られています。残念ながら、その時代小説作品は絶版になっています。寡作でマニア受けする書き手のせいか、古本はAmazonのマーケットプレイスでもプレミアム価格になっているようです。