江戸のアイドル、笠森お仙の捕物帳

山内美樹子さんの『善知鳥伝説闇小町』を読んだ。笠森稲荷境内の腰掛け茶屋<鍵屋>の茶汲み娘・お仙を主人公とした、人情捕物小説シリーズの第2弾。

 黒繻子のようにつややかな髪、瓜ざね顔で米の粉の団子より白い肌、さくらんぼのように丸く赤い口唇、すらりとした長い足、柳のように細い腰。お仙は、紅、白粉に汚されることのない素顔の美女なのだ。

(『善知鳥伝説闇小町』P.6より)

明和五年、人気浮世絵師鈴木春信の錦絵に描かれて、一躍人気者になったお仙は、物語中では上記のように描写され、まさに江戸のアイドル娘といったところ。アイドルらしく、自身で探索をするというよりは周囲を取り巻く登場人物たちを自在に使って材料を集めて、推理して事件を解決する。双子の兄で南町奉行所見習同心の大岡英之進をはじめ、目明しの<穴熊の富蔵親分>、富蔵の手下で下座見(読売屋のネタ取り役)の忠次、浮世絵師鈴木春信、歌舞伎役者の瀬川菊之丞、飴売りの土平らが、お仙を守り立てる。

「遊女梅若八朔の雪」:浅茅が原の小さな池で、商家の女と身元不明の屑払いの男の奇妙な心中死体が見つかった…。

「びいどろ鏡紅染月」:お仙は、春信がよく立ち寄る南小田原町の料理屋<牡丹>の女将お萩と女中のお照を仲秋の名月の月見に誘った。夕刻の待ち合わせのはずが、五つ半(午前九時)にお萩だけが<鍵屋>にやってきた…。

「善知鳥伝説闇小町」:お仙は、浮世絵師春信の家で、善知鳥という名の狂歌師の父と、手習師匠の母・菊代をもつ武家の出の娘、雪乃と出会う。善知鳥は、雪乃が五つの時に母と雪乃を江戸に残して、狂歌を日本国じゅうに広めるために家を出る。母菊代を亡くして、ひとりぼっちになった雪乃は手習師匠の跡を継ぐが、人生を狂わすような事件に巻き込まれることに…。

「爪紅お駒とはたた神」:爪紅売り(今のネイルアーティストのようなもの)のお駒は、五つの時に浅草観音の四万六千日で迷子になり、はたた神(激しい雷)に遭い記憶をなくし、数奇な運命をたどることになった…。

連作形式の四話とも、若い女性が事件の中心になる話で、その娘たちの心理描写がきっちりとなされていて、面白い。また、物語の中で、春信の絵と歌や川柳が自在に使われていて、江戸情緒を感じさせる。

その一方で青森市出身の作者らしさも作中に出ていて好ましかった。表題作の「善知鳥」は、青森に縁の伝説であるし、「びいどろ鏡紅染月」では<けの汁>という津軽の汁物が出てくる。<けの汁>は、春の七草を細かく刻んでおき、ふやかした大豆を槌で打ちつぶし、七草と一緒に味噌と醤油でじっくり煮込んだものらしいが、寒い時期に体が温まりそうで、おいしそうである。

シリーズは2作目で着実に面白さがアップした。次回作も早く読みたいところだ。