『なんてん長屋(二) 子持ちの幼なじみ』
『深川慕情〈新装版〉 取次屋栄三(十三)』
『蒼瞳の騎士(中) 浮世絵宗次日月抄』
今月の祥伝社文庫の新刊で注目は、五十嵐佳子(いがらし・けいこ)さんの『なんてん長屋(二) 子持ちの幼なじみ』です。第1巻が重版五刷の好スタートを切ったシリーズの続編となります。
また、岡本さとるさんの『深川慕情〈新装版〉 取次屋栄三(十三)』は、大人の機微を繊細に描いた人情時代小説シリーズの第十三弾です。
門田泰明(かどた・やすあき)さんの『蒼瞳(そうとう)の騎士(中) 浮世絵宗次日月抄』は、宗次の命の恩人である西洋人女性医師アリシアの正体がついに明かされ、怒涛の展開が繰り広げられます。
『なんてん長屋(二) 子持ちの幼なじみ』
カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:瀬知エリカ
ここに注目!
年増と呼ばれる年頃になり独り身のおせいは、十年勤めた菓子舗が潰れたのを機に、生まれ育ったなんてん長屋に戻りました。近所の料理屋で働き始めた矢先、前職の女主人であるお染が転がり込んできます。押しが強く癖のあるお染との同居を余儀なくされたおせいですが、やがてお染は長屋の住人たちと次第に馴染んでいきます。
そんな折、十年ぶりに再会した幼なじみのチカから幼い二人の息子を押しつけられてしまったおせい。チカの身の上に同情するものの、長屋では険悪な雰囲気が漂い始め、さらにおせい自身も深く傷つくことになります。
子育ての大変さ、未婚や子どもを持たないことによる肩身の狭さや社会的なプレッシャーといった現代にも通じるテーマが盛り込まれています。それぞれの立場に共感を覚え、自分のこととして読み進めることができます。
お染や長屋の住人たちの温かなお節介に胸を打たれ、辛いことがあっても解決できると前向きになれる人情時代小説シリーズです。
あらすじ
料理屋で働くおせいは、なぜか前職の元主人お染と同居する二十五歳。店の前で花に水をやっていると、十年ぶりに幼なじみのチカと再会する。突然「この子たち、お願いできる?」と、チカは子ども二人をおせいに押しつけ駆け出した。以来、五人の子を持つチカが出かける間、なんてん長屋の住人が子どもを預かる羽目に。お節介なおかみさん衆もさすがに文句を言いはじめ……。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
第一章 子持ちの幼なじみ
第二章 もてない鳶
第三章 軍鶏と借りてきた猫
第四章 とりもつ縁
2025年9月20日 初版第1刷発行
本文285ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本

『深川慕情〈新装版〉 取次屋栄三(十三)』
カバーデザイン:芦澤泰偉+明石すみれ
カバーイラスト:卯月みゆき
ここに注目!
新装版の「取次屋栄三」シリーズも、本書で第十三巻となります。
表題作では、かつて深川の売れっ子芸者で、現在は栄三が行きつけの居酒屋「そめじ」の女将・お染の過去に焦点を当てます。
色恋抜きに、あくまでも客と店の女将として親しくしてきた栄三とお染は、互いの日常に干渉しないという暗黙の取り決めを持ち、互いの過去にも踏み込んできませんでした。
ところがある日、栄三は、お染が堅気には見えない怪しげな風体の男と言葉を交わしている場面を目にします。お染は動揺を隠せない様子で、男はわずかに話しただけで店に入らず立ち去りました。
男は何者で、どのような話をお染にもたらしたのでしょうか。
お染が日頃見せることのない表情を垣間見て、栄三郎は心を乱します。
お染が栄三に打ち明ける過去の恋、そして栄三への想い。
女の矜持と純真、男の意気とやさしさがしみじみと味わえる、大人の恋の物語です。栄三の仲間たちの控えめな優しさにも癒やされます。
あらすじ
行きつけの居酒屋の女将お染が怪しげな男と話しているのを、栄三は目撃した。お染は遠目にも動揺しており、かつて見せたことのない憂いと哀切すら漂わせていた。心を乱された栄三は、漏れ聞こえた「礼次」という名を手掛かりに探りを入れる。お染はついに明かした。「礼次さんは、わっちのために人を殺したお人さ……」。やがてお染に迫る危機を知り、栄三はある決断を下す。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
第一話 たそがれ
第二話 老楽
第三話 奴と幽霊
第四話 深川慕情
2025年9月20日 初版第1刷発行
本文309ページ
本書は、2014年9月に祥伝社より文庫判で刊行された作品の新装版です。
今回取り上げた本

『蒼瞳の騎士(中) 浮世絵宗次日月抄』
カバーイラスト:浅野隆広
カバーデザイン:かとうみつひこ
著者について
1940年、大阪府生まれ。1979年、「小説宝石」に「闇の総理を撃て」を発表し、大衆作家としてデビュー。「特命武装検事・黒木豹介」(通称「黒豹シリーズ」)をはじめ、アクション小説、企業小説、医療小説などで長年活躍されている大衆小説家です。
時代小説は2004年から発表。『大江戸剣花帳 ひぐらし武士道』(上・下)に始まる文庫書き下ろし時代小説は、剣戟シーンの描写に定評があり、剣に生きる男の生きざまと、それを見守る女の哀切と慕情を描きます。「門田泰明時代劇場」としてコアなファンを持っています。
ここに注目!
「浮世絵宗次日月抄」シリーズは、「門田泰明時代劇場」を代表する人気作のひとつです。シリーズ第1作『命賭け候 浮世絵宗次日月抄』では、切ない出生の秘密を抱える天下一の浮世絵師・宗次(そうじ)が主人公を務めます。
『蒼瞳の騎士』上巻では、命を賭した血闘で銃弾を受けた宗次が、西洋人女性医師アリシアに救われました。その間、若年寄心得で番衆総督を務める西条山城守家の女性教育塾「井華塾」が爆発炎上し、妻の美雪や西条家奥取締の菊乃らが犠牲になります。悲嘆に暮れる宗次ですが、今度はアリシアが拉致されてしまいます。宗次は命の恩人を救うため、小田原城下へ向かいます。
疾風迅雷のごとく次々に現れる刺客に、宗次の激剣が一閃します。
破天荒なストーリー展開に圧倒されながらも、痛快さを存分に味わえる「門田泰明時代劇場」です。
本文では、要所となる文章にゴシック体の太字が用いられている点も門田流です。強調箇所が印象的に頭に入ってきます。
あらすじ
西洋人女性医師アリシアが拉致された! 宗次は命の恩人を助けるため、駿馬・雷と小田原城下へ。ところが、漆黒の闇のなか、巨漢の覆面侍が行く手を阻んだ。轟く雷鳴と豪力の刃、月明かりに照らされた蜜柑色の髷。此奴が拉致と「井華塾」爆破の下手人なのか? 激烈剣で対峙する宗次。その先には、高位の素顔を明かした“彼女”の姿が。同じ頃、江戸では袈裟斬りによる同心惨殺が起こり……。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次:なし
2025年9月20日 初版第1刷発行
本文251ページ
本書は「暗殺者サベル」と題し、『小説NON』(祥伝社)2024年3月号~2025年1月号に掲載された作品に、刊行に際して著者が加筆修正を施したものです。
今回取り上げた本
