『震える羊羹舟 おけいの戯作手帖(二)』 『深川大番屋 悪行狩り』 『逃亡 春待ち同心(六)』
コスミック時代文庫の2025年9月新刊2点をご紹介いたします。
麻宮好(あさみや・こう)さんの『震える羊羹舟 おけいの戯作手帖(二)』は、あやかし人情ミステリーの第2弾です。
吉田雄亮(よしだ・ゆうすけ)さんの『深川大番屋 悪行狩り』は、『深川鞘番所』を改題し、大幅に加筆修正を施した痛快捕物小説です。
また、小杉健治さんの『逃亡 春待ち同心(六)』は、8月刊行の新刊ですが、ここであわせてご紹介いたします。
『震える羊羹舟 おけいの戯作手帖(二)』
カバーイラスト:卯月みゆき
ここに注目!
著者は、本シリーズ第1作『お内儀さんこそ、心に鬼を飼ってます おけいの戯作手帖』で、第14回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞を受賞した、注目の時代小説家です。
新人が文庫書き下ろしでデビューするのが難しい時代に、高い評価を受けて受賞に至りました。
私(理流)の選評では、「とっつきやすい“あやかしもの”の体裁を取りながら、実際には人の業と狂気を描き出す。新人離れしたストーリーテリングで、見えないものを言葉にしつつ、関係者たちの視点を通して事件の真相を再構築する構成が見事だ」と記しました。
本作は、その大注目のシリーズ第2巻となります。
付喪神となった羊羹舟(型)の謎を戯作者見習いのおけいが解き明かしていく物語です。羊羹舟の持ち主であった菓子職人の思いに寄り添い、葛藤や悩みを知るおけいの心情や、弟・幸太郎、想い人・勘助との関係も丁寧に描かれています。
「見えぬものを言葉にする」という戯作者見習いおけいの成長は、著者の今後のさらなる活躍を予感させるものです。
あらすじ
「見えない人の心を戯作で表現したい」――そんな決意を抱く戯作者の孫娘・おけいは、次回作の題材探しに悩んでいた。そんな折、想い人の勘助に誘われて参加した菓子競べの場で、羊羹舟と呼ばれる菓子の型が宙を飛ぶという不可思議な現象に遭遇する。 弟・幸太郎の「付喪神では」という言葉をきっかけに、おけいは羊羹舟に秘められた想いを探ろうとし、やがて加賀の菓子職人兄弟の葛藤と苦悩に行き着く。増長してうまく話せなくなった幸太郎との関係を振り返りながら、羊羹舟に込められた思いを一気に筆に託す。――「人と人との結び合う心」に涙する、感動の時代小説です。
(カバー裏より抜粋・編集)
目次
巻の一 菓子競べ
巻の二 柿の羊羹
巻の三 汚れた雪
巻の四 思い出箱
2025年9月25日 初版発行
本文350ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本

『深川大番屋 悪行狩り』
カバーイラスト:浅野隆広
ここに注目!
本作は、著者が2008年3月に刊行した『深川鞘番所』を改題したもので、著者の代表作の一つです。主人公の大滝錬蔵(おおたき・れんぞう)は、北町奉行に逆らったことで深川大番屋に左遷されました。
深川大番屋は、新大橋近くの万年橋のそばにあり、万年橋の対岸には幕府御船手方の御舟蔵がありました。御舟蔵は船を収める施設であったことから刀の鞘にたとえられ、「鞘」とも呼ばれていたそうです。そのため深川大番屋は「鞘番所」とも呼ばれ、そこから「深川鞘番所」シリーズが生まれました。
今回の改題・復刊にあたり、そうした記述は削除・修正され、「深川大番屋」で統一されたことで、よりテーマが明確になり、物語に自然と没入できる仕上がりになっています。
明暦の大火の後、急速に開発された新興地・深川は、水路が入り組み、無宿者ややくざ者がはびこり、岡場所が乱立するなど、奉行所の目も届かぬ魔境のような場所でした。錬蔵は、米を買い占める米問屋を摘発して北町奉行の怒りを買い、深川方与力に左遷され、深川大番屋の支配役として様々な問題を取り仕切ることになります。
前任者は心労から職を辞しており、その後任を命じられた錬蔵ですが、配下の同心たちは頼りなく、役に立ちません。そこで元男芸者(幇間)の安次郎に十手を与え、手先として活用しながら、魔境・深川で悪行狩りに挑んでいきます。
火盗改メ長官・長谷川平蔵をはじめ、個性豊かな登場人物たちが次々と現れ、錬蔵と絡んでいく、痛快な時代小説です。
あらすじ
北町奉行所与力・大滝錬蔵は八丁堀随一の正義漢。腕は立ち、鉄心夢想流“霞十文字”の遣い手でもあるが、頑固で妥協を許さない性格だった。奉行から「手を出すな」と止められていた米問屋の買い占めを摘発し、その結果、深川に左遷されてしまう。 新たに支配を命じられた深川は、迷宮のような水路に悪行がはびこる無法地帯。配下の同心たちは気が緩み、頼りにならない。そんな中、禁制品の抜け荷、やくざの抗争、女郎の大量失踪など不穏な噂が次々と耳に入る。 「蛇の道は蛇」とばかりに、錬蔵は腐れ縁の元幇間・安次郎を相棒に従え、邪悪な深川の迷宮へと斬り込んでいく――。魔境深川を舞台に、剣客与力・大滝錬蔵の痛快な悪行狩りが幕を開けます。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
一章 無頼幇間
二章 逃がし屋
三章 零れ同心
四章 百鬼夜行
五章 愛憎丁半
2025年9月25日 初版発行
本文251ページ
本書は『深川鞘番所』(祥伝社文庫、2008年3月刊行)を改題し、大幅に加筆修正したものです。
今回取り上げた本

『逃亡 春待ち同心(六)』
カバーイラスト:丹地陽子
ここに注目!
本シリーズは、かつて人気を博した時代小説シリーズの再刊です。
主人公は北町奉行所定町廻り同心の井原伊十郎。33歳の独身で、許嫁で絶世の美女・百合と、音曲の師匠で妖艶なおふじの間で心を揺らしています。腕利きの同心として数々の手柄を立てていますが、惚れっぽく、脇が少し甘いところがあります。
伊十郎は、百合との仲をうまく進めようと柳島の妙見大菩薩に参詣した帰りに、百合に似た旗本の娘・竜子姫と出会います。これをきっかけに、武家の娘が富商の後添えになるという巷の噂を、興味本位で調べ始めます。
ところが、調べを進めるうちに脇の甘さを突かれ、殺人犯に仕立てられてしまい、南町奉行所の同心に追われる立場となります。潔白を証明するために真犯人を突き止めようと屋敷を抜け出しますが、そのことでかえって窮地に陥ることになります。
さらに、伊十郎が追い続ける謎の女盗賊・怪盗ほたる火の正体も気になるところで、今回もハラハラドキドキの展開が繰り広げられます。
あらすじ
北町奉行所定町廻り同心・井原伊十郎は、許嫁の百合との会食を予定していた当日、何者かに襲われ監禁されてしまう。命からがら脱出したものの、百合との約束は果たせなかった。だが、これは不幸の始まりに過ぎなかった。翌日、監禁場所から男の死体が発見され、南町奉行所同心・河合重三郎は伊十郎に疑いの目を向け、謹慎を命じる。 潔白を証明するため、伊十郎は屋敷を抜け出して探索に乗り出すが、その行動が河合の疑念を確信へと変えてしまう。ついに伊十郎は下手人として追われ、奉行所総出の大逃走劇が始まった! 真犯人を見つけるのが先か、それとも伊十郎が捕まるのが先か――。絶体絶命の第六弾、窮地に追い込まれた伊十郎の前に現れたのは……?
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
第一章 濡れ衣
第二章 脱出
第三章 甲府勤番
第四章 旗本の娘
2025年8月25日 初版発行
本文291ページ
『逃亡 独り身同心(六)』(ハルキ文庫、2014年3月刊行)を改題し、大幅に加筆修正したものです。
今回取り上げた本
