『火垂るの館 大川橋物語 3』
『さらば若様 北町の爺様 7』
2025年8月下旬に刊行された、二見時代小説文庫の新刊2冊をご紹介いたします。
火垂るの館 大川橋物語 3
カバーイラスト:浅野隆広
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
森真沙子(もり・まさこ)さんによる、名倉堂の若き骨つぎ・一色鞍之介を主人公とした江戸医療小説の第3弾にして、最終巻です。
あらすじ
斬られたのは「瀬戸屋」の主人・勘兵衛。傍らにいた男は畠山光之丞と名乗りましたが、実は名倉堂の長男・良音でした。下手人となれば本人のみならず、名倉堂の存続にも関わる一大事です。勘兵衛が残した「クビをとった」という言葉は何を意味しているのか。長男を絶縁した名倉堂の開祖・直賢の胸に去来する思いとは……。 鞍之介は、絡まった糸を解きほぐすことができるのでしょうか。
(『火垂るの館 大川橋物語 3』カバー裏面より抜粋・編集)
ここに注目!
表題作では、現在も盛業の整骨院「名倉堂」の初代・名倉直賢(なおかた)と、その長男で二代目の良音(よしね)をめぐる物語が描かれています。主人公・一色鞍之介は直賢の一番弟子という設定で、物語には直賢の三男・知重(ともしげ)も登場します。知重は日本橋元大坂町に分院を開いており、名倉堂の歴史にも触れられます。
また、第一話「遠雷」では、駒形に名倉接骨院を開業する鞍之介の助手・寸ノ吉(すのきち)が、祭りの喧噪の中で娘を救おうとして大けがを負います。寸ノ吉の目は「しろそこひ(白内障)」の恐れがあり、緊急手術が必要となります。鞍之介は幕府の御典医・土生玄碩(はぶげんせき)に執刀を依頼すべく奔走します。
さらに文政十一年に幕府を震撼させた実際の事件を題材にし、実在の人物も登場することで、物語に深みが加わっています。江戸の医療現場や市井の人情、そして歴史的事件を味わえる文庫書き下ろし時代小説であり、本作で最終巻となるのが惜しまれます。
目次
第一話 遠雷
第二話 星まつりの夜
第三話 のっぺらぼう
第四話 火垂るの館
2025年9月25日 初版発行
本文266ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本

さらば若様 北町の爺様 7
牧秀彦
二見書房・二見時代小説文庫
カバーイラスト:蓬田やすひろ
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
牧秀彦さんによる「北町の爺様」シリーズ第7弾です。北町奉行所の爺様二人、隠密廻同心の和田壮平と八森(やもり)十蔵が活躍する痛快時代小説で、本作が最終巻となります。
あらすじ
水野出羽守忠成の屋敷に呼び出された北町奉行・永田備後守正道と十蔵、壮平。危機を救ったのは俊平、健作、そして若様でした。心ある人々と共に幾度も窮地を脱してきた若様ですが、ついにすべてが明るみに出ます。僧形の若様の父は九代将軍・徳川家重の次男・重好。権勢を手中に収めようとする者は権大納言・徳川治済に限りません。謀反を企てた一味に囚われの身となった若様に、運命の時が迫ります。
(『さらば若様 北町の爺様 7』カバー裏面より抜粋・編集)
ここに注目!
二見時代小説文庫における著者のシリーズには「北町の爺様」と「南町 番外同心」があります。両シリーズは同じ時代を舞台にし、主人公たちが互いの作品に登場したり協力して事件を解決したりと、対を成す作品となっています。
北町が「爺様(老)同心」であるのに対し、南町は「若様(若)番外同心」を中心に据えており、その対照性も読みどころです。同じ時代を描きながら、永田備後守率いる北町奉行所と、根岸肥前守の南町奉行所、それぞれの視点の違いが楽しめます。
「北町の爺様」に登場する隠密廻同心・和田壮平と八森十蔵は、ともに白髪頭の老練な捕物上手です。二人の上司である北町奉行・永田備後守正道も六十三歳。清水徳川家用人、西ノ丸広敷用人、勘定奉行などを歴任し、六十歳で奉行職に就きました。
本作では市井の捕物のみならず、幕閣に巣くう巨悪に対しても敢然と立ち向かいます。
目次
悪を炙り出せ
沼津屋敷の決闘
江戸家老敗れたり
南と北の名奉行
戸惑う権大納言
夜明けを前に
若様は道を拓く
明日が消える
別れの支度
さらば若様
2025年9月25日 初版発行
本文307ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本
