弱いし、強い。龍造寺隆信が最も恐れた筑後柳川の領主蒲池鎮漣

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『戦ぎらいの無敗大名』|森山光太郎|双葉社

戦ぎらいの無敗大名 (双葉社)気鋭の歴史小説家、森山光太郎(もりやま・こうたろう)さんの歴史小説、『戦ぎらいの無敗大名』(双葉社)をご紹介します。

本書は、戦国時代の九州・筑後において要衝・柳川を治めた領主、蒲池鎮漣(かまち・しげなみ)を主人公に描いた歴史長編です。

作家について
著者は1991年熊本県生まれ。2018年『火神子 天孫に抗いし者』で第10回朝日時代小説大賞を受賞しデビュー。同作では第2回細谷正充賞も受賞しています。以降、『弟切抄 鎌倉幕府草創記』(河出書房新社)、千年にわたり国を護り抜いた益田一族を描いた『草莽の臣』(早川書房)などを発表。また「隷王戦記」シリーズ(ハヤカワ文庫)などのファンタジー戦記でも幅広く活躍しています。

あらすじ

戦国筑後の盟主・柳川の蒲池家。嫡男の鎮漣は気弱な性格から「姫若」と揶揄されて育った。永禄元年(一五五八)、毛利元就の豊前侵攻によって北部九州は乱れ、大友家からの離反者が続出。

だが、佐嘉の龍造寺が毛利と画策した「大友包囲網」は、大友に仕える鎮漣の活躍によって崩れた。結果、大友・龍造寺・島津の勢力争いは、大陸の三国時代さながらに拮抗し、裏切りも横行する中で、鎮漣の戦いはひたすらに柳川の民を守るためにあった。殺戮を増やすまじ――弱肉強食の時代に一筋の光を放つ名君の、知られざる感動の一生。

(Amazonの説明文より抜粋・編集)

ここに注目!
本書に出合うまで、正直に申し上げると「蒲池鎮漣」という人物についてほとんど知りませんでした。しかし、歴史の闇に埋もれた人物に光を当てるのは歴史小説の醍醐味であり、史料の隙間から真の姿を描き出すことは時代小説ならではの魅力です。

蒲池家の嫡男として生まれた鎮漣は、気弱さから「姫若」と揶揄され、実母からも疎まれ廃嫡されそうになります。父の蒲池宗雪は大友家に忠義を尽くし、流血を顧みず戦場に立ち続け「義心、鉄の如し」と称賛されました。しかしその忠義は、多くの兵の命の犠牲の上に成り立っていたのです。鎮漣の目には、戦のたびに柳川に帰る幾千もの骸と、城下に響く念仏の声が焼きついていました。

戦で命を落とす兵を見て、いずれ自分も戦場で無惨に晒されるかもしれないと怯える鎮漣。刀を見れば手足が震え、流れる血に気を失うことさえありました。まさに「戦ぎらいの若君」だったのです。

やがて宗雪は、お家騒動で肥前を追われた龍造寺隆信や鍋島孫四郎(後の直茂)、そして隆信の娘・玉鶴姫を領内に迎え入れます。弱さを隠さず、それを糧として生きる鎮漣の姿が、読者の胸に迫ります。

人は弱く、嫌なことからは逃げ出したいと願う生きものだ。だが、生きている限り踏みとどまらなければ場所がある。父母のため。生きるため。己の誇りのため。その場所は人それぞれだ。鎮漣にとってそれは、民の笑みのためだった。

(『戦ぎらいの無敗大名』P.167より)

戦を憎み、民の平穏を願い、戦なき世を目指す鎮漣の歩みが始まります。その姿は、九州屈指の勇将・戸次道雪に「戦ぎらいの戦巧者」と称賛されるほどでした。

大友・島津・龍造寺の勢力が拮抗する九州戦国三国時代。蒲池の義を掲げ、光彩を放った無敗大名・蒲池鎮漣。玉鶴姫を一途に思い、隆信との愛憎に揺れ、孫四郎と信を結び、民とともに駆け抜けた生涯が描かれます。読み終えたとき、静かな感動が胸に押し寄せてきます。

今回取り上げた本




書誌情報

戦ぎらいの無敗大名
森山光太郎
双葉社
2025年7月28日第一刷発行

装幀・地図製作:鈴木徹(THROB)
装画:丹野杏香

目次


本文324ページ

初出:
「小説推理」2024年10月号~2025年3月号

森山光太郎|時代小説ガイド
森山光太郎|もりやまこうたろう|時代小説・作家1991年、熊本県生まれ。立命館大学法学部卒業。2019年、『火神子 天孫に抗いし者』で第10回朝日時代小説大賞を史上最年少で受賞し、デビュー。同年、同作で第2回細谷正充賞を受賞。時代小説SHO...