シェア型書店「ほんまる」で、「時代小説SHOW」かわら版を無料配布

ピカレスク伝奇小説の白眉『白波五人帖』と春陽文庫復刊の理由

アドセンス広告、アフィリエイトを利用しています。
スポンサーリンク

『白波五人帖』|山田風太郎|春陽文庫

白波五人帖前回に続いて今回も昨秋9月に復刊された、春陽文庫から、山田風太郎さんの伝奇時代小説『白波五人帖』を取り上げてみたいと思います。

作品紹介の前に、春陽堂書店の営業部のKさんに、書籍販売が必ずしも好況ではない今、春陽文庫を復刊した狙いを伺いました。

理流(以下、理):このタイミングで復刊した理由と思いは?

春陽堂書店(以下、春):近年、高齢者向けに、安心して読める文庫本が少なかったためです。
また、池波正太郎、司馬遼太郎の生誕100年というタイミングから、復刊するに至りました。
復刊シリーズはかつての春陽文庫より文字を大きくし、とても読みやすくなっています。
高齢者の方はもちろん、若い方にも時代小説を読むきっかけとなれば、という思いで刊行しています。

:復刊作品を選定する際の基準は何?

:過去の売れ行き、ネームバリューを検討し選定しています。
また、他社では今読めない本を選定の基準とし、「春陽文庫」ならではのラインナップでお届けしていきます。

本書は、文庫レーベルとして復刊した春陽文庫から出された名作時代小説の一つ。
大盗賊日本左衛門の突然の自首を発端に、江戸を震撼させた5人の盗賊たちの運命を描いた長編伝奇小説です。

――宝暦五年。花吹雪ちる京都町奉行所に、芝居じみた派手な衣装の男がフラリと現われた。その男こそは、徳川時代最大の盗賊、日本左衛門。全国的な捜索にも捕捉されなかった大盗が自首してきたことに、奉行所は騒然となった――。一方、百数十人ともいう日本左衛門配下の盗賊たちも首領の突然の自首に混乱した。なかでも四天王と呼ばれる弁天小僧、南郷力丸、赤星十三郎、忠信利平は、日本左衛門が自首にあたり語った「天のためでござる」という言葉に混乱しつつ、それぞれ自分の進むべき道を見いだし、貫いてゆく……。

(『白波五人帖』(春陽文庫)カバー裏の内容紹介より)

宝暦五年の春。京都町奉行所に、浜島庄兵衛こと、日本左衛門が「天のためでござる」と言って、自首してきました。

日本左衛門は、百数十人の群盗をひきいて、劫略殺姦を繰り返し、日本全土に人相書を回された大盗です。

第一帖では、日本左衛門(友五郎)がまだ二十一で、美濃国笠松で暮らしていたころの逸話を発端に、知られざる日本左衛門が大盗になるまでが描かれています。
浪人の息子で友五郎と名乗っていて百姓同然の生活を送っていました。その日笠松郡代所の堤方役人で友だちの檜半之丞と、寺子屋をひらいた浪人の娘お縫と一緒に、氾濫する木曽川を見ていました。

それから時代が流れ、宝暦四年、薩摩藩は幕府より、木曽川の治水工事を命じられました。
重臣平田靱負が総奉行となった工事は、困難を極め、五十人超の割腹をだし、工事費も四十万両という巨額なものになりました。

「そうじゃ、江戸より、妙なことを仰せ越された。人夫どもが働かぬ、動揺の色があると申し上げたところ、人柱をたててみたらどうじゃとのお言葉であった。工事がおくれれば、また春の雪融水にかかる。それを案じてあそばすのだ。それほど焦っていなさるのだ。半之丞……どうじゃ、どこぞから、女ひとり探してこぬか、そやつを人柱にたてて……」
「むごいことを…」
 半之丞は、はじめて、きっとした怒りの目になって、
「それより、私が腹を切ればすむことです」

(『白波五人帖』P.68より)

半之丞は、自分の工夫を実地で試してみたく、「私にまかせてくだされませぬか?」と薩摩藩の平田靱負に申し出、靱負の許しを得ると、代官に願い出たのでした……。

盗賊になった友五郎と半之丞の再会、そして薩摩藩とのかかわりが描かれていき、スケールの大きな想像力に富んだ物語に引き込まれていきます。

第二帖以降は、日本左衛門の配下で、四天王と呼ばれる、弁天小僧、南郷力丸、赤星十三郎忠信利平をそれぞれ中心に、日本左衛門が自首にあたり語った「天のためでござる」という言葉の意味に困惑しながらも、それぞれ自分の進むべき道を見いだして、歩んでいきます。

「白波五人男」というと、歌舞伎の河竹黙阿弥作の「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしさとのにしきえ)」が、まず頭に浮かびます。
芝居で有名なキャラクターを援用しながらも、盗賊になるまでの生い立ちなど、全く新しい設定をしているところも読みどころの一つです。

忍法帖シリーズのような忍者たちによる奇想天外な技の応酬はありませんが、五人の悪漢たちが個性的で、かつ物語性豊かに活躍していく、伝奇小説の白眉。
策謀あり、バイオレンスあり、悲恋あり。権力に抗うアウトサイダーたちの運命を描いたピカレスクロマンでもあり、一気読み必至です。

1957年に第一帖が「妖説・日本左衛門」として発表されてから60年以上が経過し、この間、いくつかの出版社から刊行されてきました。
一読すればわかりますが、少しも古びていないところに驚嘆を覚えます。
「春陽文庫さん、復刊してくれてありがとう」と言いたい気分です。

復刊した春陽文庫に、池波正太郎の直木賞受賞作『錯乱』
『錯乱』|池波正太郎|春陽文庫 2022年9月に復刊された春陽文庫で、池波正太郎さんの『錯乱』を入手しました。 2023年は池波さんの生誕100年の記念の年です。 本書は、1960年に第43回直木賞を受賞した「錯乱」を含む五編を収録した短編...
大衆時代小説の宝庫≪春陽文庫≫のご案内 | 春陽堂書店|明治11年創業の出版社[江戸川乱歩・坂口安吾・種田山頭火など]
戦前「春陽堂文庫」として始まり、後に名を変え様々な作品を世に送り出してきた「春陽文庫」。令和4年、池波正太郎・司馬遼太郎生誕100年を前に刊行を再開しました。 第一弾・池波正太郎の『錯乱』『仇討ち物語』から始まり、司馬遼太郎『花咲ける上方武...

白波五人帖

山田風太郎
春陽堂書店・春陽文庫
2023年3月5日初版第1刷発行

装画:寺町勇人
装丁:高林昭太

●目次
第一帖 日本左衛門
第二帖 弁天小僧
第三帖 南郷力丸
第四帖 赤星十三郎
第五帖 忠信利平

本文414ページ

■Amazon.co.jp
『白波五人帖』(山田風太郎・春陽文庫)

山田風太郎|時代小説ガイド
山田風太郎|やまだふうたろう|時代小説・作家 1922年1月4日 - 2001年7月28日。 兵庫県養父郡関宮村(現在の養父市)に生まれた。東京医科大学卒業。 1949年、『眼中の悪魔』および『虚像淫楽』により第2回探偵作家クラブ賞(日本推...