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騒動とお悩みを解決する看板娘。江戸の文様とおしゃれも魅力

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『とわの文様』|永井紗耶子|角川文庫

とわの文様永井紗耶子さんの文庫書き下ろし時代小説、『とわの文様』(角川文庫)紹介します。

著者は、2020年刊行の『商う狼』で、第3回細谷正充賞、第10回本屋が選ぶ時代小説大賞、第40回新田次郎文学賞を受賞し、2022年『女人入眼』で第167回直木賞候補となり、2023年『木挽町のあだ討ち』では第36回山本周五郎賞を受賞されました。
今、最近の活躍が顕著で、今、最も注目される時代小説家の一人です。

本書は、多忙な著者が取り組んだ、文庫書き下ろし小説です。

江戸西河岸町の呉服屋・常葉屋は「ここにしかない品がある」と着道楽のあいだでも評判のお店。女将である律が突然姿を消してしまったことで、箱入り娘の十和が店を繁盛させようと奮闘していた。十和の兄で芝居をこよなく愛する若旦那の利一は、面倒事を背負い込む名人。ある日、やくざ者に追われる妊婦を連れて来たことで、常葉屋は大騒動に巻き込まれてしまう……。
呉服屋の看板兄妹が織りなすきらびやかな江戸の人情物語!

(『とわの文様』カバー裏の紹介文より)

日本橋川沿いの西河岸町に呉服屋、常葉屋(ときわや)は、三井越後屋や大丸屋のような大店ではありませんが、「ここにしかない品がある」と評判で、大藩や大看板の歌舞伎役者のお得意もいる、来客が絶えない評判の店です。

物語の舞台となる西河岸町は、日本橋の高札の東、一石橋までの間の地で、付近にはきんつばや「梅ぼ志飴」で知られる菓子屋の老舗「榮太樓」があります。

店は主人の吉右衛門と女将の律を中心に営み、跡取り息子の利一と妹の十和(とわ)も店に出ることもあります。

その日も古参客の味噌問屋の主人が店を訪れ、おすすめの品を仕立ててもらうことを決め、店先まで見送りに出た十和に問いかけました。

「ところでお十和さん、幾つになられた」
 杵屋はふと思い出したように問いかける・
「十六になります」
「ほう……となると、そろそろ嫁入りかな」
 杵屋は十和に問いかけつつ、奥の吉右衛門にも目をやる。すると十和は
「いえ」
 と、即答した。
「母様が戻るまでは嫁入りは致しません」

(『とわの文様』 P.14より)

十和の母律は、二月ほど前に御用に出向いた武家屋敷から、夜になっても戻りません。しかも、律によく似た女を乗せた猪牙舟がひっくり返り、女はなかなか見つかりません。翌日になっても、翌々日になっても律は帰りません。水死体が上がったという話も聞こえてきません。

しかし日が経つにつれて、店の客も周囲の人々も、律は死んだと思い始めるなか、十和だけが律の帰りを信じて、女将の代わりを務めようと気負っています。

兄の利一がある日、継ぎ接ぎだらけの薄汚れた木綿の着物をまとって、裸足で大きなおなかを抱えた若い女を連れて帰ってきました。

十和は、自分の部屋に連れて行き、豊と名乗った女の着替えを手伝い、女の様子を観察していました。
女は、つぎはぎの木綿の着物の下に、真新しく上質な正絹の麻の葉文様の襦袢を来ていました。ちぐはぐな印象を受けながらも、夕餉の粥を差し入れて、ともかく一休みするように言い置いて部屋で出ました。

気分転換に散歩に出かけていた利一は、やくざ者に追われていた女を馴染みの貸本屋の近所で見つけて、連れ帰ったのでした。

「麻の葉文は、安産祈願の意味もあるからね。その絹の襦袢に腹帯となるとお腹の子を待ち望んでいる人がいるってことなんだろう」
 呉服屋らしく文様を解いて、吉右衛門は改めて襦袢を見る。
「裄丈は会っているのかい」
「ええ、ぴったり。あの人の為に誂えたようです。ただ、ご覧になれば分かると思いますが」
「うん、随分と、荒い仕事だ」
 襦袢の縫い目は随分と荒く、職人が仕立てたものでないことは一目でわかる。

(『とわの文様』 P.35より)

利一に助けられた女、お豊の正体は?
麻の葉文の襦袢に込められた想いと、誰が仕立てたのか?

やがて、兄妹はお豊の隠された事情を探るため、幼馴染みで奉行所同心田辺勇三郎の力を借りますが、その帰りに十和はやくざ者に捕らえれ匕首で脅迫されました……。

本書は連作形式で、「麻の葉の文様」のように、着物の図柄となる文様をテーマにした、三話収録されています。

居酒屋での帰りに何者かに襲われてけがをした利一を描いた第二話。
その第二話で描かれる蜘蛛の巣文。蜘蛛は害虫を食らい、家に安寧ももたらすもので、自らの手で巣を張り、餌を捕らえるその姿はたくましく、自ら幸運を引き寄せる吉祥紋だと言われています。

第三話では、八王子から出てきて不忍池の茶屋で茶汲み女として働くお千枝とその姉千津をめぐる姉妹の愛憎を描いています。

おとないちあきさんの表紙装画に描かれた十和と利一の装いなど、江戸のおしゃれが満載されているのも、素敵なところです。

江戸の娘らしいお侠で人情味ある十和が魅力いっぱいで引き込まれました。
消えた母律の行方を知りたい一方で、十和の出生の秘密も気になります。
続編が楽しみなシリーズができました。

とわの文様

永井紗耶子
KADOKAWA・角川文庫
2023年3月25日初版発行

カバーイラスト:おとないちあき
カバーデザイン:二見亜矢子

●目次

第一話 麻の葉の文様
第二話 蜘蛛の文様
第三話 更紗の文様
終話

本文261ページ

文庫書き下ろし

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『とわの文様』(永井紗耶子・角川文庫)

永井紗耶子|時代小説ガイド
永井紗耶子|ながいさやこ|時代小説・作家 1977年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。 新聞記者を経て、フリーランスライターとして活躍。 2010年、「恋の手本となりにけり」(2014年、文庫刊行時に『恋の手本となりにけり』と改題)...